Bなあおい、このお春っていう人には、親戚なんか誰もいやあしねえ事を俺あチャンと知っているんだぜ。もとの亭主の、その黒田とかなんとかいう男から頼まれて君あ来たんだろう。そうだろう?
金吾 いえ、ちがいやす!
嘉六 とにかく踊れ、踊れ。え?
助三 だって、もういいじゃねえか、お春さんこんなに酔っぱらっているんだから――
古賀 おい助三、お前、へんにこいつに同情するようなことばっかり言うな、どういうわけだい?
助三 だって、あんまり、むげえじゃねえか。
須川 おい、婆さんよ――木曽のナ――(春子の体を横だきにして、土間に足音をひびかせて踊りはじめる。踊りと言っても、ヨタヨタと板椅子にぶっつかったりしながら)
春子 かんべんして下さいよ。あの、かんべんして――(須川の手をふりもぎった拍子にヨロヨロッとして、源次の方へヨロケてくる)
源次 クソッ、このアマ! 気どるない!(つきとばす)
春子 あっあれ!(ドタドタドタと土間をよろけて行き、ヒィッと言って、ドシンとあお向けにひっくりかえる)
金吾 ……(さっきから、我慢に我慢をしていたのが遂に激発する)春子さまに対しておめえ何をするだ!(源次にとびかかって行く)この!
源次 なに、くるか貴様、ようし、ふざけやがって!(パシッとなぐる)
金吾 春子さまに対して、うむっ! この野郎!
源次 ようし! ちきしょうっ!(殴る、打つ、そして取ッ組み合い)おい古賀、須川、嘉六!

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後は六人の男達が放っ[#「放っ」はママ]どなり声と、打つ、殴る、蹴るの乱闘の音。板椅子や、テーブルなどのベリベリとこわれる音。暫く続くが、こちらは四人で金吾は一人なので、そう長くは続かず、袋叩きにあった金吾は土間にノビてしまう。
[#ここで字下げ終わり]

源次 野郎、ざま見やがれ。
古賀 (パシッパシッと二つばかりまた殴って)フウ――。事務長、こいつ、どうしましょう?
源次 そうさな、ここにころがしといちゃ邪魔っけだ、みんなで引っ担いで、県道の角まで行って、おっぽり出してくるか。
須川 おっ、けい! こら!
嘉六 と、どっこいしょ! まさかケガはしめえなあ、ケガしてると後がうるせえからなあ。
源次 なあに、ただ気絶しているだけだい、早くしろ!
古賀 と、どっこい!(古賀と助三と、須川と嘉六が気絶している金吾の手と足を持って、ヤッショイ、ヤッショイ、ヤッショイと、ドタドタ、ゾロゾロと小屋を出て、小走りに瓦礫の上を立去って行く。マイクはそれについて行く)
春子 (背後から)金吾さーん、しっかりして、金吾さーん!
源次 んおめえはここに居るんだ!

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(マイクはこの二人を引きはなして、金吾を抱えた四人が、瓦礫の上をトットットットットッと行く、それについて行く。ヤッショイ、ヤッショイ、ヤッショイ)
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古賀 おい、ここらでよかんべい。
須川 よし、一、二の三と!(四人が金吾の体を県道上に投げ出した音、ドシン)
嘉六 ここなら、自動車が来てもひかれねえから大丈夫だい、はっは。
古賀 さあ、戻ろうぜ。(もと来た方へ歩き出す)
助三 大丈夫かなあ、今の――?
須川 大丈夫だよ。さあ、もう一杯飲もう。

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(四人が石ころの上をまたもとの小屋へ戻って行く足音)

ケーブルの音が、カラカラカラカラカラ、ガラガラジャーとあざ笑うように響く。

そこへ町のおばさんと、十六七の娘が通りかかる草履と下駄の音。
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娘 あら、ここに誰か、人が寝てるだ。
おばさん え? ふーん、もうこんなに暗くなってきたのに、どうしたんだかなあ? ああ、ここの飯場の工夫が、今日はたしか山祭りで、酒盛りをやるんだって言ってたから、酔いつぶれて寝てるだよ。
娘 のんきな人だなあ。
おばさん ははは、さあ早く行くべ。(二人は立去って行く)

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そこへ、カタカタカタと下駄の音がして、人が近づく。
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鶴 (離れた所から寝ている金吾を認めて、立止って薄暗がりをすかして見ている)
金吾 うーむ。うーむ。
鶴 あのう――どうかなすったんですか? もし!
金吾 うーむ。(唸る)
鶴 どうかなすって――(近寄ってきて)もしもし、あなた――
金吾 うーむ。春子さま! 春子さま! 俺あ――
鶴 え? ……あの、あなたは――(こごみこんで、金吾の肩に手をかけて)ああ! あなたは柳沢の、金吾さんじゃないんですか? どうなすったんです、金吾さん。こんなところで、あなたどうなすったんですか?(金吾の上半身を助けおこす)わかりますか? あたし、鶴やですよ、わかりますか。あたし、黒田様のところにずっとせんお世話になっていて、信州にも二三度行きま
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