セって、茶碗酒を飲むらしい音。
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金吾 ええ、ごめんなすって。ちょっくらごめんなすって(板戸をノック。返事なし)ええと――(仕方なく、板戸をソッと引き開ける音。それに向って、内部からいきなり五六人の工夫達が酒に酔って騒いでる声がぶっつけるように)
源次 (事務長)ははははは、さあさあお春さん、一杯飲めよ。今日は山祭りの無礼講だ。こんで男っばかりだからな、ふだんはお春婆さんだが、今日はたった一人の女ご[#「女ご」に傍点]で、言ってみりゃ女王様だあななあ、古賀。
古賀 ははは、まったくだい。なあに、こいでもお春さんなんてえ女は、暫く前まで社長の第三号か、第五号の想い者だったんだ。鶯鳴かせた春もあるという婆さんだかんな、ははは。
助三 さあさ、お春婆さんよ。飲みな飲みな、え?(茶碗に酒をつぐ音)
春子 (しいられた酒でもうかなり酔っている)いえ、もう、私はいけませんからかんべんして下さいよ。
須川 なあに、いけないなんて嘘うつけ! さあ飲めよ。
嘉六 お春さんが飲み残したら、俺が加勢してやろうじゃねえか。なあよ!
金吾 ああ、春子さま!
春子 え? ……(土間の隅の板椅子から入り口に立っている金吾を見て、フイにそれと気がついて)ああ、金吾さん!
金吾 春子さま!
春子 金吾さん、あなたはどうしてこんな所へ――?
金吾 お手紙をもらいやして、そいであちこち探しまわって――
春子 そう、それは……(立上つてそちらへ行きそうにする)
源次 え、なんだって? なんだ?(と、金吾へ向って立上る)君あ、なんだ? 何しにやって来た?
金吾 へ、こんちは。俺はこの春子さまの知り合でがして――
古賀 春子さま? なんだ、笑わすなよ、へへへ。
助三 なんだい、この男? もしかするとなんじゃないかえ、事務長。いつか社長がこの婆さんに虫がついているとかちった、そいつじゃねえのか、この男は?
春子 いえ、そんな、これはあの、金吾さんといいまして、あの――
源次 (金吾に向って)金吾――そいで、何しに君あやって来たんだい?
金吾 いえ、別に……ただ、この春子さまの、わしあ親戚みたいなもんでやして――
源次 しかしねえ、このお春さんは、ここの社長から僕が預かっている人でね、誰が来ても渡しちゃならんと言われているんだから、僕には責任があるんでね。まあまあやって来たんだから、こうやって会うだけは会わせるが、二人だけの話はよしにしてくれよ。僕が後で、社長から叱られるからね。なに、この人の一身上のことでは心配しなくてもいいよ。この事務所で、炊事だとか、つくろいものなぞをやってもらっていてね。今日は山祭りでみんなこうして一杯飲んでいるんで、お春さんにも一口飲まして、まあ愉快にやってるんだ。君もどうだ、一杯。
金吾 へえ、どうも。わしあどうも不調法で――
源次 そうか、そいじゃまあ――おい、みんな、お春さんも景気よく飲もう、さあさあ。え、飲めよお春さん、遠慮するなよ、おめえ、いける口じゃねえのか。
春子 事務長さん、かんべんして下さいな。私あ、もう――
源次 だってお前、さっきまでさされた酒はいくらでもカプカプ飲んでたじゃねえか。この、ええと、金吾さんとかが現われた途端に飲めねえというのはどうしたんだよ。今更そんな様子ぶったってしょうがねえぜ。さあ、飲めよ!(近寄って行き、茶碗を持たせて、ゴボゴボと酒をつぐ)さ、飲んでくんなよ、さあ!(春子の茶碗に手を持ちそえて、無理じいに飲ませる)
春子 あ! アプッ、アプッ!
助三 事務長、まあいいじゃねえか。高い酒をそう無理に飲ませなくたって――どれどれ俺が助けてやるか。
源次 (助三の出した手と、同時に横面をピシリパシッとなぐりとばして)何をしやがるんだ、俺がさした酒だ、すけてくれと誰が言ったい。さあ飲みなよ、お春さん!
春子 ええ、飲みますから――あの飲みます(泣くように言って、茶碗から飲む)
源次 ははははは。(須川と嘉六も笑う)
嘉六 (いきなり、胴間声をはり上げて、木曾節をうたいはじめる。手を叩きながら――後半は須川もそれに和す)
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木曽のナ、なかのりさん、木曽の御嶽さんはナンジャラホイ、夏でも寒い、ヨイ、ヨイ、ヨイ。

(源次と古賀、一緒にはやす「アラ、ヨイヨイヨイのヨイヨイヨイ」)
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須川 俺あ踊るぞ! おい、お春さん、いっしょに踊ろう。
古賀 ようよう! お春さんも踊れよ。
春子 もうかんべんして下さい、もう!
古賀 だって、この間も踊ったじゃないか。さあ、立てなきゃ、俺が腰をこうやって抱いてやらあ。
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(春子の体にしなだれかかったらしい)
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源次 あははは、一緒に踊れよお春さん。へっ、君も踊らねえか
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