オた。ばあやの鶴やですよ。
金吾 うーむ、あつつ、つ!(と唸ってやっと少し我に返った様子。ギクンとして)ああ、鶴やさん。

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響きわたるケーブルの音。
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[#3字下げ]第14[#「14」は縦中横]回[#「第14回」は中見出し]

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 お豊
 轟(中年)
 壮六
 お仙
 林
 お妻
 喜助
 村人(三人ばかり、中の一人は若い女)
 闇の中の声(男四人ばかり)

音楽
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お豊 (語り。中年過ぎの)そいで、金吾さんは、セメント山で酔っぱらった工夫たちに、さんざん叩きなぐられて気絶していたところを、春子さんの内で以前ばあやさんをやっていた鶴やさんに助けられ、そのあくる日またその飯場に行ったそうでやすけどね、もうどうしても春子さんに会わしてくれないんですと。で、それから横浜の敦子さまの方へ廻って、又、秩父の方へ行ってみると、春子さんはもうそこにはいなかったそうで。ウソかホントか、事務所の人の言うのには、前から春子さんに同情していた工夫の人と二人で駈け落ちをしたんだと言いやす。ガックリして金吾さん信州へもどって来てね。急に十も年をとったように、いっとき寝こんでしまった、……「お豊さん、敦子さまがこれまでなんどもおっしゃった通り、春子さんは、つまらねえ女だ。俺あ今度こそそれが骨身にこたえてわかった。だのに、俺あ、その春子さんを、心からうっちゃることが出来ねえ」……そう言って金吾さん――しみじみ溜息をつきましたよ。あれは昭和六七年ごろだったかなあ、――その時分、満洲事変が起きて、それからその次の年には上海事変が起きる。そいから、たしか五・一五事件たらいうこともその年に起きて、そんで満洲国がでける。国際連盟を脱退するの、二・二六事件というのもありやしたね……そいから蘆溝橋で戦争が始まって、日支事変が焼けひろがる。へえ、わしらには何のことやらわからねえ、どえらいことがバタバタとつづいて起きて、今から思うと何のことはねえ、太平洋戦争がおっぱじるまで、思い出してみると一息だったような気がしやすよ。その間、ここら山ん中でもいろんなことが大分変ってね、息子や親父を出征さしたり戦死さしたりした家も多かったが、一番大きなことは食糧増産々々々々で、あっちでもこっちでも、えらく開墾の仕事がはじまった。それについて落窪の実行組合で、落窪はずれの山を共同耕作で開墾しようという話になったのを、金吾さんがうんと言わねえので、話がえらくもめやした。というのが、その山の真ン中へんに、黒田さんの別荘があってね、金吾さんにしてみれば、それを取りつぶされるのは、つらい。金吾さんは、ふだんはおとなしいが、一たんこうと思うとなかなかきかねえしね。実行組合では、村の旦那衆がガアガア言うし、川合の壮六さんは言うまでもねえ、郵便局の林さんなぞが間に入ってくれたり、しまいに海尻の大地主さんで轟さん、この人は県会議員にもなった人で、このへんの、まあ、一番えらいしだったが、そういう人の所まで話が行ってね、そりゃゴタゴタしやした。……

轟 (中年の男)いやあ川合君――だったね、あんたの言うことも一応はわかるが、ご存じの通り、満洲国は出来上った。支那事変はああしてグングン奥地にまでひろがってしまう。こういう際に地方に住んでいるわしらとしては、国民の主食を確保するということに全力をあげなきゃならない。そういう際にだね、山林を開拓して、主食を生産しようとする下からの民意をだな、おさえるということはできないな。
壮六 いえ、それが轟さん、何度も言葉を返すようで失礼でございますが、その柳沢金吾という男は、別に食糧の増産に反対してるわけじゃねえんでがして、あすこの林を切り払ってしまうと、あの下の段の落窪の水田の水の調子がすっかり狂ってしまって収穫が半分以下になりやしないかと心配していやすんで。
轟 しかしねえ、今君の言ってる、あの落窪の山林の下の七八町歩の水田というのは、あらかた私の家の田地でな。いや、私にはあの上の山林を切り払うと水の加減がどうなるか、というような細かいことはわからないがね、何れにしろ、それがよくても悪くても、自分の田地なために、これ以上立ち入ったことをいうのは工合が悪い。
壮六 いえ、それは私も存じておりやすが、金吾の言いますのは、あの水田が誰の持物であろうと、上の林を切れば荒れるにきまっとる。それを知っていながら、みすみす僅かなソバ畑なぞを作るために、山を開墾したりは出来ないと、こう言いやすんで。
轟 しかし、この間、落窪の実行組合の人がやって来て、ちょっと言ってたが、その柳沢君というのには、あすこの山林を開拓させたくないというわけが、他にもあるんだそうじゃないか? ――なんでもその自分が
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