Nゴクと聞える)
喜助 どうしたつうんだ? いよう金吾、やるなあ。よし、その調子で勝負をつけべえ! さあ来い!(これは張切って土間をドシンドシンと言わせる)
金吾 ふう!(と、あおりつけた酒の息を吹いてからカタンと徳利をあがりくちに置き、土間におりる)ちょっくら、俺あ――
喜助 さ、来るか!
金吾 喜助さん、かんべんしてくれろ!(言って、喜助のわきをすり抜けて戸外へ)
お豊 どうしたの金吾さん?(これも急いで下駄をつっかけて土間へおりる)
喜助 外でやるか? ようし、雪の上で取っ組み合いも、おもしれえ!(戸外に飛び出す。ザクザクと雪を踏む音。その時は既に金吾もザクザクと足音をさせてかなり遠ざかっている)……待て待て金吾! どけえ行くんだ? おーい!
お豊 (これも戸外に出て来ている)金吾さあん! どけえ行くのう! 金吾さあーん!
喜助 全体どうしたつうんだ、あん奴あ?
お豊 その、黒田さんの別荘さ行くのよ。おおかた。
喜助 え、黒田さんの別荘と? こんな晩になって、この雪ん中を、気でもふれたか? ああれ、見ろ足跡だけで、もう姿あ見えねえや!
音楽 (短かく)
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音楽やんで、すこし離た所から三味線の爪弾きの音。
[#ここで字下げ終わり]
壮六 いや、もう酒あ、いらん。……そうだったのけえ。そこまで金吾が春子さまのことをナニしてるとは――それほどまでのナンだとは実あ俺も思っていなかった。豊ちゃん、お前の気を引いたりしたなあ、俺が悪かったかんべんしてくんな。
お豊 いえさ、わびたりされちゃ、私が困るよ。そりゃ金吾さんの事をナニしたのは、はじまりは壮六さん、あんたから言われたからの事だけんど、私あツイ本気であの人を好きになっていただからなあ。又、いい人だもの。いじらしいと言うか、いえさ、あんな気心の良い人を、それほど迷わせちまった春子と言う人が面憎くて、ようし、意地でも私が金吾さんをこっちい向かせて見せずと思い込んだのだわ。向うがどんな良い女だか知らねえが、私も女ごだ、チャーンと振り変えて、見返してやらず。そう思ったの。それがね……その、喜助と一緒に金吾さんの歩いて行った足跡が、裏白な雪の上にポツポツと点々になってるのば見ててね、フラフラとついて行って見る気になってさ……喜助さんも一緒について来たの、やけに明るいお月さんでなあ。二人でトットと附い
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