ワに飲ませて自分もゴクゴクと飲む)よ、お豊、お前も飲んでくれさあ!(と酌をする)
お豊 私あよござんすよ
喜助 よござんさねえよ、こんで、もともとの起りと言うは、お前だかんな、
お豊 へえ、どうして、さ?
喜助 しらっぱくれるのはやめにしろい。そうだねえか、先ず第一番にこの俺がお前におっ惚れてよ、あんだけ笹屋に通いづめて言うこときけ言うこときけで、いくらそ言っても聞かねえで、四十八センチぐれえの肱鉄砲くらわしときながらよ、そのお前が、どこが好いだかこの金吾に惚れちゃって、さていくら通って来ても、様子がいまだにモノにならねえくせえや。これ又片想いで、そこら中べた一面にイソのアワビだらけで、なんてまんがいいんでしょとくらあ、へっ! さ、もっと飲め、金吾!(金吾の茶わんに酒をつぐ)
お豊 まあ、ふふ!(と、喜助の怪弁に思わず笑う。金吾も失笑)
喜助 つまり、そのモツレだなあ、元はと言いば――と思っているのが、そこが畜生のあさましさだ。お前は大きに、この金吾に惚れている気でいるなれど、ホントはこの俺に惚れてんだぞ。人間自分の事あ自分にゃわからねえもんだ。かわいや、なんにも知らねえわやい、と言うのがあるんだ馬鹿、お豊、お前がホントに好きなのは金吾じゃなくて、この俺だぞ。気をつけろい!
お豊 そう、そりゃ、ありがたいわねえ。じゃま、私のホントに好きな人にお酌をしましょ。(と、この場の始末を笑い話にしてしまえそうなので、笑って言って酌をする)
喜助 (それを受けて)冗談いってんじゃねえんだぞ俺あ。まじめだぞ。イヤだイヤだと好きなだけ言ってろてんだ。もう一年もしたら、お前はチャーンと喜助の女房でおさまっているべし。てへへ……村の娘と畑の芋は、かぶり振り振り子がでける、と言ってな。てへへ、俺が予言をしておくぞ。俺あ今でこそ、へえ、バクチなんぞ打っているが、もとはと言えば、年期を入れた大工だ。そうなったら俺あチャーンと大工をかせいで、可愛がってやるからな。安心して、子供の十人も産めよ、てへへ。なあ金吾、どうだ?
金吾 はは、そうだそうだ。
喜助 そうだそうだなんずと、俺が酔って言うと思って心安く言うと聞かんぞ。てめえと勝負をつけるつうのは、まだ諦らめちゃいねえからな、……んだからよ、俺あ言ったんだ。野郎め、今日こそ白か黒か決着をつけべえと思って海の口で一升買って、ここさやって来てたら、
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