煬痰゚、立って見ろ! なんだあんな情無し女の一人や二人! そもそもだな、そもそも、この――(ホントに怒って食卓の上の皿小鉢をガチャガチャ言わせて、立ちかける)
お豊 まあまあ壮六さんよ!
喜助 (隣室)やかましいやいっ! 馬流へんのドン百姓が、コナカラ酒にくらい酔やがって、てっ、やかましいぞっ!
おしん 喜助さん、そんな、あんた――
壮六 なによおっ!(カーッとなって)畜生め、さっきから黙って聞いてりゃ、馬流のドン百姓がどうしたとっ? (ガタン、ピシンと障子を押し開けて廊下へ)出て来う、相手になってやらあ! バクチ打ち野郎! 出てうせろっ!
喜助 ようし!(これもガラッ、ピシリ、ドタバタと廊下に飛び出した音)ドン百姓だからドン百姓と言ったんだっ! 野郎っ、海尻の喜助を知らねえかっ!(と、いきなりパシンと壮六の顔をなぐつた音)
おしん あれ、誰か来てえっ! 喜助さん、よして!
壮六 (ドタンと倒れて)やりやがったな、畜生っ!
喜助 やったが、どうした! この、これでもかっ! ドン百姓! こらっ!(喧嘩はこの方が数段うまいようだ、ひどく酔っている壮六をつづけざまになぐりつけて、馬乗りになる)
壮六 ううっ! ちしょうっ! ううん!(と唸って手足をバタバタさせる)
お豊 やめてっ! 喜助さんっ、そんな、酔ってる人を、そんな、やめてっ!
喜助 へっ、ドン百姓のくせに、きいた口を叩くからよ! やいっ、起きて見ろ、この!(と又なぐる)
金吾 おい、喜助さんとかよ、もうやめねえか!壮六あ酔ってるんだ。
壮六 うう! うう!
喜助 へっ、お前の連れかよ? だら、こん野郎つれて帰れ。酔うんだったら、そこらのドン百姓なんず、てめえんちの火じろに水っぱなでも垂らして酔ってりゃ、よからず、壮六だか、じんろくだか知らねえが、この――(ガツンと又なぐる)
金吾 お前、喜助と言うんか?
喜助 そうよ、それがどうんた?
金吾 この壮六つうもんは、俺の仲良しの朋輩だ。よくも、そいつをなぐってくれたな。
喜助 へっ、なぐったが、どうしたつうだ?
金吾 こうしたつうんだ!(言うなり、相手をひっつかんで、ウッ! と叫んで投げ飛ばす)くそうっ!
喜助 わっ!(ドシン、ガタン。ベリベリベリと鳴ったのは喜助の身体が障子を破って襖の所まで飛んで行った音)
金吾 野郎っ!(又とびかかって行く)
喜助 うっ! わあっ
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