をまわって、たき口から中にもぐり込む)わあ、暗いな。
金吾 どうしやす?
香川 もうちっと、そっちへ寄れない? やあ、ここにいれば見つかりっこない。あとでびっくりさせてやるんだ。黙って黙って金吾君。(二人はクスリと笑ってシーンと静まる)
春子 (かなり離れた上の方に立停って)このへんじゃなかったかしら、敦子さん?
敦子 (これも同様)そうね。ああ、あすこよ、春子さん、ほら!
春子 ああ、もうすっかり出来あがってるわ!(ペシペシと枯れ枝を踏んで走りおりて来る)
敦子 (これも、それに従いながら)そんなに急いでは転ぶわ春子さん!
春子 まあ、可愛いカマだこと。これで炭が焼けるのね。
敦子 へえ、これがそう? 賢一さんと金吾さん、どこかしら?
春子 香川さあーん! 金吾さあーん! どこい行ったのかしら?
敦子 ああ下の川へ石を取りに行ったんじゃないかしら? 内側を石でたたむんだって言ったから。きっと、そうよ。
春子 じゃ、いっときここで待っていましょうか。やれ、うんとしょ。(草の上に座る)敦さんも、ここにお坐んなさい。
敦子 ……いやだ。
春子 あら、なあぜ?
敦子 いやだからいや!
春子 だから、なぜなの?
敦子 春さんみたいなダラシのない人のそばに坐るものか。
春子 なんだ、さっきの議論のつづき? ゆうべもその話だったし、二三日前も半日近くお説教だったのよ。ホントにかんにんして、もう、だって私はウソをついてるんじゃないのよ。
敦子 そう、春子さんは正直に言ってる。だから私は腹が立つの。
春子 敦さんのそう言う意味は、私わかるの。頭ではね。しかし、私には正直のところこうしか思えないのだから、仕方ないじゃありませんか。人間は一人々々、顔や姿がちがうように考えもちがうんじゃないかしら?
敦子 ふん、そりや、春さんはおきれいよ。
春子 あら、まあ、私がおきれいなら敦さんはおきれいの二乗! シャルマン!
敦子 じょうだん言ってるんじゃ無いのよ、私は、
春子 じょうだん言ってるんじゃ無いのよ、私も。
敦子 ま、聞きたまえ! 本気なんだ私、みすみす春さんが不幸になって行くのを私が見すごしていられると思って?
春子 どうして、しかし、私がパリに行って敏行さんと結婚するのが不幸になることになるの? 幸福と言うのは、自分が一番したいと思うことをする事じゃなくって?
敦子 ちがうの! それ
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