jコニコと頬笑んでばかりいて、もうピタリと泣かなかったそうですが……そういう、愚かしい、むやみと手の大きかった男――そういう男が私の手の下の石の下に眠っているのだ、と、そう思ったのです。

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音楽
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……ヒョイと気がつくと、高原はもう夕闇に包まれて茫々と暮れかけています。汽車の時間も、もう僅かしか無い。おどろいて私は歩き出しました。金太郎君とジョンが言葉もなく後からついて来ます。(踏み分けられる秋草の音)
……遠い風が私たちのうしろから吹きすぎて行きます。目を放って向うを見ると、既に刈り終った四五枚の水田に切り株が点々と闇の中に没しています。その彼方には黒々とニジンだように見えるカラ松林がつづいています。
その水田を開いたのも、そのカラ松林を植えたのも、みな金吾老人のあの大きなミットのような手であることを、話で聞いて私は知っていました。

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遠くでボーッと汽車の汽笛。そして喘ぎのぼる列車の響。
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……「ああ汽車が来たようだ。そいじゃ金太郎君、ここで失敬します」と私が言うと「ああ、そいじゃどうかお大事に」と金太郎君は小道の角で立ちどまりました。ジョンの姿が見えないので、どうしたのかと思っていると、その時、今立去って来た黒田の別荘跡の方角から、ジョンが鳴くような声がして来ました。
「はは、ジョンの奴は、どうしたんでやすか、オヤジが死んでから、時々あの墓場のわきへ行っちゃ遠吠えをやらかす癖が附いちゃって――あれがそうでやす」金太郎君はそう言って寂しく笑いました。

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その犬の乾いた、引きのばした遠吠の声。
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……私はしばらくそれを聞いていました。

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(列車の響近づき、汽笛の音がジョンの声をかき消すようにボーウ、ボーウと高原一帯に遠くこだまして鳴りひびく、大の遠吠。更に汽笛。)……やがて、私は、金太郎君に別れを告げて、既に薄暗くなった秋草の小道を駅の方へ急ぎました。

音楽
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底本:「三好十郎の仕事 別巻」學藝書林
   1968(昭和43)年11月28日第1刷発行
底本の親本:「樹氷」ラジオ・ドラマ新書(上・下)、宝文館
   1955(昭和30)年10月1日第1刷発行
初出:
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