チたが……金吾君、君はなにか食べるものを持っていないかな? わしあ、この二三日、実になるようなものをなんにも食ってないもんだから、もう腹が減って、腹が減って……
金吾 そうでやすか、ちょっくら待ってくんなして。(リュックサックの紐をほどいて、リュックを開けながら)金太おめえこの中に入ってな、その敏子さんの置手紙というやつ――壁に貼ってあるそうだ、それを探して来てくれろ。
金太 あい!(立って横路地の、その店の横にひらいた戸口をガタガタ開けにかかる)
金吾 そうだ、とにかく中へちょっくら入りやしょう、さあ!(リュックをさげてそれに従う)
敏行 なんか食べるものさ。あったら、とにかく早く、なあ君!(まるで乞食のような言い方で、二人に続いて戸口を入る)
金吾 (入った裏口の、たたみの土間の上りがまちに[#「上りがまちに」は底本では「上りがままちに」]リュックを置いて、その中から竹の皮包の握り飯をとり出す)そいじゃ、これをお食べなして。春さんや敏子さまやそいから横浜の敦子さまにも食べさせべえと思って持ってきたやつで――。
敏行 (ひらかれた竹の皮包の握り飯を一目見るなり、ガタガタふるえる手で、つかみかかるように、その二つばかりをとって、いきなりかぶりつく)あ、こらあ君、白米の握り飯じゃないか! こうあ――あ、ふう―― うむ――(歯を鳴らし、ピチャピチャと音をさせて、むさぼり食う)
金吾 ……(その有様をジッと見ながら)そんな急がねえで、急いで食うとノドに詰まる。
敏行 うむ、うむ――(言ってるそばから、ノドに詰まったようで、眼を白黒させて、グウッグウッと音をさせる)
金太 (内から戻って来て)お父ちゃん、これがそうじゃねえかな?
金吾 よし。(金太の渡す紙切れを受とって)いけねえ、ノドに詰めた。金太、そこらに水はねえか?
金太 うん?
金吾 ああ、そこの棚のヤカンをちょっと取ってみろ。
金太 (ヤカンの音をさせて)ああ、へえってらあ、あい。(と、ヤカンを持って来て金吾に渡す)
金吾 さあ、これを飲みなせえ。(敏行につきつける)
敏行 う、う――(ヤカンから口飲みをして)
ふうーっ!
金吾 (敏行の背中をトントンと叩いてやりながら)あわてねえで。
敏行 どうも、すまん、なんと言ったらいいか、金吾君、ありがとう、ホントに――(少し落ちついてムシャムシャと音をさせて握り飯を食う)

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