轤クにすんだようで、その間もたまあに春子さんは金吾のところに見えたようで、一番しめえに見えたのは、そうだ忘れもしねえ、太平洋戦争が始まった年だったから昭和の十六年だ。なんでも東京でひどい病気になられたそうで、その後の養生をこっちでさせてえつうので敦子さまと敏子さまが連れて来さしってね、その春の末から秋まで別荘で寝たり起きたりしていなすった。その間、金吾は例の通り、ちゃんとめんどう見てやってね、一生一度、半年近く春子さまとシンミリ暮したわけだ。
はは……(と寂しく笑って)といっても、金吾もその時は白髪の方が多いジジイになったし、春子さんも、もういい年で、すっかりやつれてしまいなすってね、それに、病気がひどい熱病だったそうで、それ以来、どういう加減か、頭がすっかりぼけてしまって、どうにかすると十二三の子供みたいになっちまった。それまでの苦労があんまりひどかったせいもありやしょう。何を見てもすぐにおびえる風でね、ただもうお豊さんの娘のお仙ちゃんや、その弟で金吾の後取りの金太郎、これはもう十四五になって金吾の内へ来たっきりになっていたが、この金太郎やお仙ちゃんを相手にして、まるで小さい子のように遊んでばかりいなすってね、それに東京からこっちへ来る時に拾って来たという犬をえらく可愛がっていやしたっけ。そういう、罪が無いと言えば罪の無い、まあ気の毒なようなお人になってしまってね、金吾は、まあそれのお守りみてえな事だったなあ……。

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遠くまた近く、夏の終りのすがれた山鳩の声がひびく。
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金太郎 (よくとおる少年の声で、働きながら歌う「農民道場の歌」)……見よ東《ひんがし》の朝ぼらけ……
金吾 よいしょ!(とこの二人は林のはずれの、狭い稲田に刈り倒して並べてある稲の束を、金吾はまとめて束る、金太郎はそれを二つに割ってサヤに干している。その稲の束を扱うサヤサヤ、サヤサヤという音が継続する)
金太 やれ、どっこいしょ! やれ、どっこいしょ! へえ、もうあとちっとでおしめえだ。
金吾 ははは、そうよ、なんぜ田圃が小せえからの。金太よ、もう少しそうっと割って掛けねえと、米粒がおっこちるぞ。
金太 あい。こうかや?
金吾 そんだ、そんだ。金太もだいぶ上手になった。こうやって稲を刈ってな、サヤにかけて干すのは、ただ乾かすだけじゃねえんだぞ。こん
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