ノ酒をあふりながら、荒れている)なあおい、杉やのお妻さんのおかみさん。そいつはみんな焼餅だべ、そうじゃねえか、世の中の人間には、男と女と二色しか居ねえや。男が女に惚れたり、女が男に惚れたりすることは当り前で、それがなくっちゃ人間の種が絶えべえ。馬鹿にしくさって、金吾が黒田の春子さんにおっ惚れたのが、何がいけねえんだ!
お妻 (中年のおかみさん)まあまあ喜助さんよ、内の店先でいきまいてみたってどうならず? まあきげんよく飲んでくんなんし。
喜助 山を開墾しようと言う話に、そういう焼餅根性を持ち込んで、一人の人間が正しいことを言ってるのば、みんなで押しふせようとするのは、なんだ? 果ては、金吾にだけは肥料の配給をよせだなんて言いはじめる。これがヒガゴトでなくて、世の中にヒガゴトが有るか? そいで俺あ実行組合に談じこんでやろうと思って出かけて来ただ。したら、組合のえらがたは、みんな留守だと言やあがって、ようやっと、一人だけ畑に出てるとこを掴まえていくら話しても俺にゃよくわからねえちって逃げを打たあ。あんまりシャクにさわるんで、そいつをひっぱたいて俺あ引上げて来たとこだ。ちしょうめ、ムシャクシャしてならねえんだ!
お妻[#「お妻」は底本では「壮六」] だけんど、そんな事で落窪の衆をなぐったりなすったりしていると、又、やれ、仕返しだなんて、ますます事がこんぐらかりやしないかねえ。近頃じゃ、なんかと言うと直ぐに国策だ国策だで、ちょっと何かすると駐在まで乗り出して、人の事を国賊だと言ったり、村八分にするだなんとおどかしたり、うるさい世の中になってきたからなあ?
喜助 人間が正しい事をしてるのに、何の怖え事があらす? 国策だとでも国賊だとでも何とでも言いな! ただなあ、百姓に肥料の配給をとめるつうのは、大工からノコギリを取り上げるのと同じで、捨ておけねえぞ。な! そういう事をやってええのかお妻さん、返答しろ!
お妻 そんな事、わしに言ったとて、困りやすよ。

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外の道を一二の村人が通る。「お晩でやす」「お疲れさんで……」などの声。
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壮六 (靴音をさせて近づいて来て)おお、喜助棟梁、こんな所でどうしたんだ。
喜助 ああ壮六かよ。なあに、金吾のことでな、今落窪の実行組合の世話役を一人ひっぱたいて来たとこだ。あんまり話がわからねえんで。

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