ナ、喜助はいきり[#「いきり」は底本では「いきなり」]立ってね、今日は落窪の実行組合の顔役衆のところへ談じこむんだと言って出かけやしてね。
壮六 そうかよ。実は俺もやっぱしその用事でな、今日はそこの轟さんの所へ寄って、今迄お願いしてみたども、あの衆もいろいろわけがあって、これ以上調停役に乗り出す気はねえちってな。そいでまあ、俺あこれから海尻の郵便局の林さんとこへ寄って話をして、それから落窪の実行組合の人たちに逢えれば逢って話をした上で、今夜金吾の所さ行って、泊りこんでようく話をつけべえとこう思ってな。
お豊 そうかね。おめえさんが行ってくれりゃ安心だ。
お仙 (上り端に茶を出して)壮六のおじさん、お茶でやんす。
壮六 あい、ありがとうよ。(茶碗をとって、立ったまますする)
お豊 家の喜助がまた酒でも飲んだとなると、どんな乱暴なことしでかすかわからねえ人だから――
壮六 なあに、あんで性根をとっぱずすような頭梁じゃねえ。そんじゃ俺ら急ぐからな――(と飲みおえた茶碗を上り端において)お仙ちゃんよ、今にこのおじさんが、いいおむこさん探してやっからな、磨きあげて待ってろよ、ははは。
お仙 壮六おじさんの馬鹿!
お豊 みろ壮六さん、馬鹿なんてお嫁さんがあるかよ、ははは。
壮六 そいじゃな。
お豊 あい、よろしく頼んます。

[#ここから3字下げ]
(お豊のせりふにダブって、出征兵士を送る太鼓の音が次第に近づき、遠くで「ばんざーい」という人々の声がして、やがてそれらの音が次第に遠ざかる)

(街道をトットットットッと歩いて行く壮六の靴の音。やがて川波のひびき、壮六の速度は早いので、前に歩いて行ってる人の下駄の音がだんだん近づいて来て)
[#ここで字下げ終わり]

壮六 おお、そこに行くのは海の口の林さんじゃねえでがすか?(追いつく)
林 (ふり返って、見迎えて)やあ、これは川合君、珍らしいなあ。
壮六 今日は郵便局は休みでやすか?
林 いやあ、そうじゃねえが、落窪の鈴木の伜が入隊でな、駅まで送りに来た。
壮六 そらあ、ご苦労さまで。鈴木さんというと、実行組合の組合長でやしたね?
林 うん、そうだ。ありゃ俺の遠い親戚にあたっててね、ふだんおだやかな男だがな、この間、それ、満洲国へ村中入植した、あの大河内村の連中と逢いに行ったりしてな、それ以来、ここらの高原農業も満洲なみにやらねえ
前へ 次へ
全155ページ中112ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング