ェら、石のように立っている金吾)
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激しい音楽。
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敦子 (音楽がやむと、その尻にかぶせるようにして、叩きつけるような涙声で)だから金吾さん、ですから、どうしてあなたはその時、春子さんを力ずくででも引とめて下さらなかったのよ。どうしてそれを指をくわえて、あなた見ていたんですの。
金吾 (弱りきっている)敦子さま、そうおっしゃられても、俺にゃどうも。それにその後の春子さまの身の上のことを俺あよく知らなかったし、横田さんと言う人が、春子さまのどういう人に当るのか、見当がつかなかったし……
敦子 横田は、あれはゴロツキよ。セメント会社を小笠原と言う男と組んで、すっかり乗っとってね。敏行さんをふみつけにした挙句、ウロウロしている春子さんをつかまえて、さんざんこき使ったり、利用したりした挙句に、お妾さんみたいに扱っているのよ。そんなあなた、遠慮なんかしなけりゃならない相手じゃないのよ。
金吾 だけんど、だら、春子さまがどうしてああ言われて、その場から東京に一緒にお帰りになったんですかね。
敦子 春子さんという人はそういう人なの。人がいいというのか、馬鹿といっていいか、強い力で押されると、押されたとうりになるの。それは金吾さん、あなただってわかっているんじゃないの。ホントに、私はね、この二、三年、春子さんのことや敏ちゃんのことが心配になって、次から次とあの人の後を追かけ廻すようにしてきたのよ。ところが春子さんの方じゃ、逃げるの。そりゃね、私にあんまりこれ迄心配をかけてきたので、もうすまないからと言うんで逃げ廻ってる春子さんの気持は私わかるの。しかしそういう風にして逃げ廻っているために、なお一そう、私に心配をかけているということには気がつかないの。そういう馬鹿な人なのよ。そいで、この間ね、やっと横田たちの秩父のセメント山の事務所に、春子さんが住みこんでいると言う話を聞きつけたんで、私出かけて行ったの。そしたら、事務所と言うのは名ばかりで、まあ汚い飯場ね、そこの飯炊き――女中さんみたいなことをやらされていたらしい。ところが、私が行った時にはもう春子さん、そこには居ないで何処か行っちまったと言うの。そいで仕方がないから、東京の心当りをあちこち探した挙句、ヒョイと気がついて、もしかするとこちらへ春子さん来たんじゃないかと思ったんで、私あ
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