ば県の方へジカに私から話せばよい事だろうが、その前に土地のことをいろいろ聞いときたい。
壮六 はあ、それは、その柳沢の金吾――先ほど申しあげました――私よりも金吾の方がこのへんから奥のことについてはくわしいものですから、海の口から先きは金吾に案内いたさせようと思っております。同じ馬流の生れでありまして、私とは幼な友達で、ズーッと海の口のはずれで開墾に雇われて稼いでいる、しっかりした男です。
勝介 金吾君と言うのかね、そんなにこの辺のことをよく知っている――?
壮六 はい。もうズーッと、この奥で高原地の百姓したいと言うんで、そいで土地を買う金を溜めるために開墾で働らいている奴です。家が微ろくしちまって――それに、、この辺の平坦地には、もう余分の田地はありゃせんから。
勝介 そうさねえ、うむ、そりゃ、この辺の高原地はやりようで麦やジャガイモや、それから酪農、まあ北海道へんのような農業には向くかもしれん。そうかね、そりゃ、私の方でも、そういう人には会ってみたい。君の友達と言うと、まだ若い人だね?
壮六 はあ、私と同い年です。ああ、そろそろ海の口です。あの右手の崖の上の雑木林で働らいているのでがして。
[#ここから3字下げ]
(ガラ、ガラ、ガラと車輪の音、トテ、トテ、トテーとラッパ)
[#ここで字下げ終わり]
春子 あら、ら!
勝介 どうした春?
春子 ほら、ほら、あれごらんなさい、お父様! あすこ!
勝介 ははあ、子供たちが泳いでいるな。おお、おお!
春子 それがね、私、あの岩の上に、なんだか赤い岩が乗っているなと思って見ていたの。そしたら、ラッパが鳴ったと思ったら、その赤い岩がいちどきにこっちを向いてピヨンと飛びあがって、両手をあげて、そいで、ポンポン水の中にとびこんだの! まるで蛙だわ!
勝介 はは、いいね。この辺の子たちも!
壮六 (笑いを含んで)こういう寂しい所なもんで、よその人でも馬車でも、何を見てもハシャグんでして。
春子 私も泳ぎたくなった。泳いじゃいけないお父様?
勝介 そら、いかん! この辺の子は馴れているからよかろうが、春があの水につかったら、いっぺんにふるえあがる。冷たいのだ、ここらの水は。
春子 くやしいわあ!
壮六 さ、来やした。この上ですから――(馭者に大声で)小父さんよ、ちょっくら停めてくんない。
馭者 ああ?、停めるか? よしよし、どう
前へ
次へ
全155ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング