mっているのは小笠原と言う人と、横田と言う人ですの。小笠原と言うのは、とても乱暴みたいな、豪傑肌と言いますか。横田と言う人は、極くおとなしそうな人ですけど。
木戸 小笠原と横田ね。
春子 敏行はその横田さんの方を信用しているようで、実は、現在も横田さんは主人に言いつかって、信州に行っている筈ですの。なんでも、会社創立の払込金の敏行の分がまだかなり残っているとかで、そのため先日から金をかき集めているんですけど。それに信州の土地家屋を売り払うために、横田さんに委任状を持たせて行かせたんですの。なんですか、その金が払い込めないと、刑事問題とかにもなりかねないとかで……
木戸 いや、私の心配するのも、そういうような点でしてね。そうか、とにかく、大至急なんとか手段を取るように考えてみましょう。
敦子 ちょっと待って春子さん、だって信州の別荘や土地は、あれはあなたの名儀になっているんじゃなくって?
春子 ええそうなの。でも、しかたが無いから、あたしの実印やなんかも持って行ってもらったわ。
敦子 いけない! それごらんなさい春子さん。あなたと言う人はホントにまあ! だってあれはあなたのお父さまのお心のこもっている土地で、たしかカラマツの苗畑もあったし、売り払ったりしては、いけないのじゃないの?
春子 ええ、だからなんとかしてあすこだけは父のために残して置きたいと、ホントに私、泣いて敏行に頼んだんですけど、どうしても、ほかに手段が無いと言うの。だから仕方なく――
敦子 それにあそこは柳沢の金吾さんに保管を頼んであるんでしょ? 金吾さんだから、それこそ大事にかけて守ってきたにちがいない――すると今ごろは金吾さんはその事で困っているんじゃないかしら? そう、キットそうだ! 可哀そうに金吾さん! まあ、あなたと言う人は、ホントになんと言う! それで、その土地を売って、どれ位の金をこしらえようと言うの? もっと早くその事を、どうして言ってくれなかったのよ! 全体、金高はどれくらいなの?

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音楽(唐突な、激しい、短ブリッジ)
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横田 (ねばりのある、しかし決定的な調子で)金高がいくらなのかと今更言われても、どうもしようが無いんだ。私もこうして黒田さんから一切をまかされて信州くんだりまでやって来て、こうして宿屋に泊りこんでまで事を片附けにかかっ
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