「僕は――」
[#ここで字下げ終わり]
俺は答えることができないで
闇をすかして少年を見た
[#ここから2字下げ]
「おめえは東京の人ずら?
おらんちに時々泊るから
東京の人はわからあ」
「そうだよ東京だよ
君はこの邊の子?」
「おらあごしよ平《でえら》だ
ごしよでえらのしの屋だ
しの屋の風呂の釜たきだ」
「捨吉というのか?」
「そうだ」
[#ここで字下げ終わり]
少年はまた笛をとつて口にあてた
今度はいくらか低い調子だ
俺はうつけたように聞いていた
この世に生きて
していることとは
どうしても思えない

知らぬ間に笛が止んでいて
少年はガサガサといわしていてから
何か重い荷物を背中につけて
スッと立つて小屋を出た
[#ここから2字下げ]
「どこへ行くの君?」
「だつておめえ 行くずら?」
[#ここで字下げ終わり]
草の中をサヤサヤと歩き出した
無意識に俺も立上つて
その後から歩き出す
少年は背負梯子に
松の丸太のようなものを
二十本も背負つている
ギシギシと繩がきしむ
しかし當人は輕々と足を運ぶ
やせていて
背は俺より高いようだ
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「君は、そのしの屋へ歸るの?
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