ます

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このように内のお父さんと
隣りの小父さんの、睨み合いは
すこしずつ、すこしずつひどくなりながら
毎朝のようにくりかえされるのです
そして竹藪の梢が
新芽どきとはまたちがった黄色をおびた緑色を濃くして
ルリ色のそらにきざみ込まれたまま
ゆれるともなくゆれながら
小さい町に音もなく
一日一日と冬が過ぎて行きます

翌日の朝はその時間になっても
いくら待っても昇さんが来ない
もしかすると小父さんの代りに
農園の用事で東京へ行ったかもしれない
しかしそれならそのように
たいがい前に言ってくれるはずなのに
この日はなんにも言ってくれなかった
それでもホノボノとした静かな朝で
お父さんの朝のおつとめも始まらない
――と私は思っていたのです
なんと悲しいことでしょう
人間というものが
なんでもかでも知っているように思ったりどんなことでも考えることができると思ってる
そういう人間のゴーマンさがですの
ホントはたかが二つの目と耳としか持たず
たかがフットボールぐらいの大きさの頭を持っているきりで
見ることも聞くことも考えることも
お猿さんといくらもちがわないのにね
いいえ、人間と
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