いうものがと言うとまちがいです
この私がです!
この私が椅子に寝て、小さな町に音もなく
冬の朝のおだやかな光がみちみちて
青空にはめこんだ竹の梢を眺めている間に
お隣りとの垣根をはさんで
内のお父さんと隣りの小父さんとの
大喧嘩がはじまっていたのです!
そうです大喧嘩です
今にも斬り合いがはじまるかと思った――
昇さんが私にそう言いました
「なに、僕も夜になってから母から聞いて知ったんだ
母の話では、昨日の朝は天気は良し
まだ木魚の音もきこえないので
ノンビリした気持で
父と母は
垣根のそばの苗木の世話をしていたそうだ
垣根のこちらではお花婆さんが
無縁墓の大掃除をはじめたらしい
ホウキで木の葉をはき出したり
鎌で草の根っこを掘り出したりしながら
例のデンで高っ調子のひとりごと
それも墓石を相手に念仏からお経の文句
無縁ぼとけの故事来歴をしゃべりちらしているうちはよかったが
やがて、今に臭い臭い匂いがして来るから
がまんしにくかろうが、がまんしろの
お金をもうけるためには
あんな匂いをさせて業《ごう》を重ねなくてはならないのと
遠慮もえしゃくもない高声だから
垣根ごしに父も母にもつつぬ
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