けに聞えるんだ
母は今にも父が怒り出しはしないかと
ハラハラしながら横目で父を見ると
父はお花婆さんの口の悪いには馴れているし
腹には毒のないことも知っているが
さすがにおもしろくは無いと見えて
舌打ちをしてコエだめの方へ行って
コエをかきまわしはじめたと言うんだ
そらそらそら! ほとけさんたちよ
業の匂いがはじまりましたよ
鼻がもげぬように用心するこった!
お花婆さんが声をはりあげる
あんまりだと思って母が垣根の方をヒョイと見ると
思いがけない、君のお父さんが真青な額に青筋を立てて
垣根の方からヌッと首を出して
内の父の方を睨んでいる!
びっくりしてよく見ると
ブルブルふるえる右手に、鎌を握りしめている!
その形相が凄いんだよ!」
「いいえ、あなた、御院主さんは
あんまり天気が良いものですから
その朝はおつとめの前に御自分もお墓の掃除の加勢をしようとおっしゃっていましてね
わたしの後からお墓へおでましになって
わたしから鎌を受取って
草の根なんぞを掘り起していなすったんですよ
そこへあなた、お隣りさんが、人の鼻の先きで
あの腐った匂いをいきなりはじめたんですからね
誰にしたって腹も
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