それがどうして工業学校などに行くの」
「人間は夢を見る動物なり」
「だから人間は夢を見る動物なり
あたしだって、こいで人間の内よ」
「あっはは!」
「ほほほ!」

     3

昇さんが笑う時には眼を糸にして
鼻の穴を上へ向け、ノドの奥まで見せて
ワッハ、ハと、それは良い声をあげるのです
二人が笑っていると
ズッと聞えて来ていた本堂の木魚の音が
急に大きくなったと思うと、
ガーン・ガーンと鐘が鳴り出した
「あっ、いけねえ、小父さんが怒りだした!」
と昇さんと私は顔を見合せて、二人で耳をすませながら
鼻の穴を開いて
臭いをかいでいるのです
「ほらね、やっぱりだ」
朝のそよ風に乗って
腐ったような、えぐいような、ねばりつくような
いやないやな臭いが流れて来る
昇さんはゲッソリした顔をして
「おやじも、いいかげんにしてくれるといいけどね」
「どうして、しかし小父さんは
そんなに木魚の音が嫌いなのかしら?」
「木魚の音などに関係ないと言うんだ
花作りが一日に一度肥料の加減をしらべるのは
くらしのつとめだからと言うけどね
それは口実さ
朝っぱらからコヤシだめをあんなに掻きまわして
こんなにひ
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