たんだ
ほら、フランス語初等科講座テキスト
やっと有ったよ」
「あらあらあら、有ったのね
実は私あきらめてたの
もう講座がはじまってふた月
いくらお父さんに頼んで捜してもらっても
町中の本屋さんに無かったのよ」
「僕も方々さがしたあげく
市場の裏の小さな本屋にたった一冊
残っていたのを見つけたんだ」
「どうもありがとう昇さん
お金はあとでさしあげるから」
「金はいいんだよ
切花の仕切の金は僕がもらってるから
それは光ちゃんに僕買ってあげたんだから」
「ありがとう昇さん
ありがとう昇さん」
「そらそら、また泣くのはごめんだぜ
僕はきらいだ」
「いいえ泣かない。ただ私、うれしいのよ
笑っているでしょ?」
「ははは、そうそう、笑う方がいいんだよ人間は
しかしそれにしても、おかしいなあ
そうやって寝たっきりの光ちゃんが
しかもお寺の一人っ子の光ちゃんが
どうしてフランス語など習うんだろ?」
「だって何を習おうと人間の自由でしょ?」
「それは自由だけどさ、つもりがわからない光ちゃんの」
「つもりがわからないのは昇さんだって同じだわ
だってそうでしょ、昇さんは農園の後をついで花作りになるんでしょ?
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