たが
ついにウヤムヤになってしまって
それ以来、隣りの内と当山の先代から今に至るまで
この問題は持ち越されて来ているんだよ
(……それなら、だけどお父さん
お願いですから、お隣りの内で言う通りにしてて下さい
現にお父さんだって、たかが十坪ぐらいの土地は惜しくないと言ってるじゃないの
お願いですから、きれいに土地をさしあげてお隣りと仲良くして下さい……)
と私は言いたかったのだけれど
しんけんに喋り立てている父の顔を見ていると
とてもそうは言えません
父としては古い古いゆいしょのあるこの寺の土地を
たとえ一坪でも半坪でも
自分の代になってから減らしたくない
今となっては死んでもゆずりはしないという目の色です
その父がだんだん私には気の毒に見えて来る
ガンコなようでも、ほかのことではとっても人が好くて
お母さんが亡くなってからは私のために奥さんももらわず
まだ五十六だのに歯が抜けてしまって、ひどいお爺さんみたいになって
私という病気の娘と二人っきりよ
かわいそうな、かわいそうなお父さん!
私にはなんにも言えないの
それで黙って涙を流れるままにしていたら
それを見て父は喋るのをパタリとやめ
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