敷地のこと」
その筆の文字はウネウネと曲りくねった漢字ばかりで
私には一行も読めません
それを父は昂奮した句調で説明してくれるのですが
何やらクドクドとして、一つとしてハッキリとはわからない
なんでもその住職の若い時分は
隣りとの地境もハッキリしていなかったし
ことに竹藪の向う側あたりは
この奥の村のお大尽の土地の地つづきで
荒れ果てた林であったのを
そのお大尽がこの寺に寄進したと言うのです
その時にちゃんと測量でもすればよかったのだが
昔のことで唯、山林二十なん坪とだけで
登記も正確にしたかどうか
とにかくそれ以来寺の土地として捨ててあったのを
間もなく、その時分のお百姓だった隣りの家で
種芋や苗などの囲い穴を作るから
その山林の一部分を貸してくれと言うので
さあさあと気持よく貸してやったと言うのです
それ以来、別に地代も取らないが
隣りの家から季節季節の野菜などを届けたようだ
それから十五六年はそれですんだが
耕地整理の測量で、地境をハッキリさせることになった時に
隣りの内で、その土地を自分の内のものだと言い出した
それでこちらでは以前そのお大尽の野村さんから寄進された土地だと言う
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