だ?」
「お父さんと隣りの小父さんのことです」
「今日のことかね?」
「いえ、今日のこととは限らないの
ホントにホントに、ねえお父さん
もう争いはよしてほしいと思うんです
私がこんな生意気なことを言ってはすみませんけど
ぜんたい、どういうわけで、内とお隣りは仲が悪いんですの?」
言いながら涙が流れてしかたがなかった
父は何か強い言葉で言いかけたが
私の顔をヒョイと見ると
言葉を切って、急に黙りこみ
永いことシンと坐っていました
その末にヒョイと立って本堂の方に行って
やがて何か大福帳のような横長にとじた
古い古い帳面を持って来て
私の枕元にドサリと置いて
まんなかどころを開きました
「お前がそこまで言うのならば
わたしもハッキリ話してあげよう
いずれお前もこのことはちゃんと知っていて
この寺を末始終、守ってくれなくてはならぬ人間だ
よくお聞き、どうして隣りの内と仲たがいをしたか
いやいや、と言うよりも、どんなに隣りの内がまちがっているか
これ、ここにちゃんと書いてある!
これはこの寺の名僧として名の高かった先々代の住職
その方が書き残した過去帳だ
それ、ここを読んでごらん
ひとつ、当山
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