表立っていさかいはなさらないけど
両方で自分の家でふくれながら
先方をそれはそれは憎みなさるんだよ
いつものことなので少しは馴れっこになったけど
どう言うのか戦争がすんでからこっち
また一年一年とひどくなって来てね
この分で行くと、お前も見たように
どんなことがはじまるかと思って私は気苦労でしかたが無い
戦争が終って民主主義とやらになって
自分自分の慾が強くなって
人間みんな喧嘩早くなったのかねえ
――母はそう言う、馬鹿な話さ!
そいで母と僕とで、それとなく
もうそんな争いはやめにしてくださいと言うと
父は、自分はやめる気でも相手がやめないから仕方がないと言うんだ
どうして毎朝毎朝いりもしない木魚を
おれをからかうように叩くんだと言うんだ
君のお父さんはお父さんで、きっと似たようなことを言うにちがいない
自分がやめる気でも相手がやめない
毎朝毎朝、こちらが嫌いと知りながらコエの匂いをなぜさせる
喧嘩を売る気があるからだ、と言うにきまっているんだよ!
木魚の音が先きかコエの匂いが先きか
どっちもどっちで相手をとがめてキリが無いのだ
馬鹿は死ななきゃ治らないと言うけれど
ほかのことでは賢い
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