来ない時分
もしかすると、君のお父さんもまだこの寺に養子に来る前かも知れない
だからもちろん僕も君も生れるズット以前の話だ
この寺の先々代の住職の坊さんと
僕んちの父の父――つまり僕は知らないが僕の祖父にあたる老人が
その頃この町で流行のように行われた
耕地整理をキッカケにして
あの竹藪のこっちがわの境界線のことで
ひどい争いをしたと言う
それもホンの長さ十間ばかりの間、幅が二尺か三尺
坪数にして僅か十坪ぐらいを
自分の畑だ、おれの地面だと言いつのって
どうにも決着がつかぬままに
裁判にまで持ち出したけど
もともと両方とも先祖から持ち越した土地のことで
どちらの物と決められる証拠はなし
裁判所でもウヤムヤになってしまった
それ以来、君んとこの先々代と僕の祖父は犬と猿のようになってしまい
僕んとこではそのうらみを僕の父に受けつがせ
君んとこではそいつを先代に、先代はまた君のお父さんに吹き込んで
ズーッとつづいているそうだ
母が言うには
毎年毎年、春と夏はそれほどでもないけれど
秋になってくると、おかしなことに
お父さんと隣りの院主さんの争いが激しくなって来る
そして冬になって寒くなると、
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