かれて
しゃべるのを胴忘れして見ていたっけ
そのうちに先ず内の父が僕の姿を見て気はずかしくなったのか
鍬をおろして顔をそむけた
すると君のお父さんも鎌を引っこめて垣根を離れる
それで、なんのことは無い、犬の喧嘩が立ち消えになったように
なんのこともなくおしまいさ!」
6
そうやって昇さんは
ふざけたように話すのだけれど
内の父と隣りの小父さんの睨み合いが
どんなにすさまじいものであったか
その目の色を見るとわかります
私は聞いているだけで身内がふるえて来たのです
「馬鹿なものだよオトナなんて!
たかが木魚の音とコエダメの匂いじゃないか
相手をゆるす気にさえなれば
実になんでもないことなんだ
それが、君のお父さんはこの町のお寺さんの中でも
立派なお坊さんで有名な人で
内の父だって俳句をこさえたりして
文句のつけようの無い良い人なのに
そいつが、わけもなしに憎み合う!
どう言うのだろうと僕が母に言ったら
わけは有るんだと母は言うのだ
そうは言っても、くわしいことは母も知らない
母が父の所にお嫁になって来るズットズット以前のことなんだ
だから君の亡くなったお母さんも、まだお寺に
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