」
「そうさ、僕にもわかりはしないよ
しかしそうなんだから仕方がないさ」
「オトナは、すると、みんな気が変なのじゃないかしら?」
「そうさ、そうかもしれんなあ
しかし、やっぱり父も小父さんも気ちがいじゃないしなあ」
そう言って昇さんは苦しい苦しい表情になって
「もしかすると、アメリカとソビエットが
事ごとにいがみ合ったり原爆競争をしているのも
デカイことと小さいことの違いこそあっても
これと同じようなことかも知れんなあ」と言いました。
「そうなの、そうなの!
実は先日から私もそれを考えていたのよ!
もともと両方とも良い人たちなのよ
そして何が善いことで何が悪いか
ちゃんと知っているのよ
それがお互いに相手のすることにいきり立って
カッとなってやり合うのよ!」
「しかし、それにしたって、やっぱり、わけはわからないのよ
話し合ってすべてのことをうまく片づけて
仲よくできないことはないのに
それをしないで張り合っている
やっぱりオトナは気が変だよ!」
そうして私と昇さんは互いに顔を見合ったまま
永いこと永いこと考えこんでいたのです
10[#「10」は縦中横]
それから私は考えつづけていました
しまいに頭が痛くなりました
すると三四日してから昇さんがヒョックリ現われるとイキナリ
「光ちゃん、やっぱり両方ともホントなんだ」
と言うのと同時に私が
「昇さん、私はこうしたらいいと思う」と言うと
両方がぶつかり合って
二人で笑ってしまいました!
「え? 喧嘩をしないでやって行ける法があるの?」
「いいえ、やって行ける法とは言えないかも知れないの
しかしね、私はこう思ったの
両方のどちらか
自分の方が相手よりも強くて賢いと思ったら
そう思った方が相手に負けてあげるのよ
自分よりも弱い者や[#「者や」は底本では「音や」]愚かな者と喧嘩して
勝っても自慢にはならないでしょう?
だから負けてあげるのよ」
「すると相手からぶたれてもなぐられてもかね
相手からののしられても踏みつけにされてもかね?
なるほどそうすれば喧嘩は成り立たないから、平和になるだろうが
しかし、どちらかがそうできるかね
君んちのお父さんにしても内の父にしてもさ
ソビエットにしてもアメリカにしても、でもいいや
できるかね、それが?
それができれば世話はない
それができないから、今のようになっているんだ」
「すると昇さんはどうすればいいと思うの?」
「だから両方ともホントで、それが人間と言うものだから
どうすればいいかわかりはしないよ現在は
しかし光ちゃん、ぼくらは祈ることはできるんだ
祈ると言って悪ければ、花婆ちゃんの言う念仏をとなえると言ってもよい
つまり希望を持ちつづけることなんだ
人間は結局はそんなに馬鹿ではない
そのうちにはキット自分たちのこんな愚かさに気がつくと思う
ね光ちゃんよ!
君と僕とは希望を持ちつづけよう!
そして、いついつまでも仲良くしよう!
たとえどんなことが起っても
たとえ君のお父さんと僕の父が
どうにかして斬り合いをしても
君と僕とは希望を捨てず
いついつまでも仲良くしよう!」
「ええ、そうしましょう!
どんなことがはじまっても仲良しよ
だってホントに仲の良い人が
地球上に一組でも二組でもいるかぎり
昇さんのお父さんと私の父も
けっきょくは仲なおりができるだろうし
ソビエットとアメリカも仲良しになることができるわ
その可能性がある道理だわ
仲良しよあなたと私、昇さん!
さあ、ゲンマンしましょう!」
そうです子供らしいと笑いなさい
そうです子供のように二人とも
ゲンマンしながら頬笑んでいたけれど
心はシーンと、まじめでした
それから昇さんがイタズラそうにニコニコしながら
「しかしね光ちゃん
僕らは新らしい時代の若い者だ
古い人たちの落ちたワナに落ちてはならんのだよ
旧い人たちの中には、こんなことから
男と女として仲良くなってしまって
恋愛なぞをはじめる人もいるが
僕らはそうなっては、あかんのだよ
恋愛は恋愛、仲よしは仲よしだよ
なぜこんなことぼくが言うかと言うと
いつか内の母がきげんの良い時にぼくをつかまえて
「お前にお嫁さんもらう時には
おとなりの光子さんのような
気立ての良い子がいいね」
と言って、からかったことがあるからだ
母は本気でそれを望んでいるのかもしれんのだよ
だから君んちの小父さんと内の父の不仲を
よけいに苦にやむのかな、ハッハハ!
いいかい、光ちゃん、それからね
親と親とが仲が悪いと、そのためにかえって
逆に子供と子供が恋愛に落ちることだってあるんだぜ
いつか「ロミオとジュリエット」と言うのを読んだことがあるだろう?
あれさ! あれもワナだよ
裏返しにしたワナだよ
気をつけようぜ、光ちゃん!
僕は光ちゃんが大好きだ
将来、光ち
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