ゃんが丈夫になって
僕たちは互に好きになって
僕は君にお嫁になってくれと申しこむことがあるかもしれない
その時はその時で、今は今だ
これは別々のことなんだ、いっしょくたにはしまいね!」
「ほんとうよ、昇さん
よく言って下すったわ、私もそれを言おうと思っていたの
昇さんの言う通りだわ
私たちはワナに落ちてはならないわ!」

それからも毎日毎朝
昇さんは私のところに来てくれます
内の父は木魚を叩き
昇さんのお父さんはコエダメをかきまわし
花婆やはとんきょう声でブツクサと喋りちらし
昇さんのお母さんはいろいろなことで心配ばかりしながら
昇さんは花作りのかたわら学校に通い
そして私のカリエスはすこしずつ、すこしずつ良くなってると先生がおっしゃって
そしてラジオで教わるフランス語は
短い文章の訳読に入りました

父と昇さんのお父さんの喧嘩は
相変らず続きながら
やがて春が近づきます
そらそら、今も木魚の音がしはじめたから
やがてコエの匂いが流れて来るでしょう
私には笑えてくるのですよ
ビヤン! フランス語では、それも結構と言うのを、そう言うのよ

昇さん、これで私の長い長い詩はおしまいよ

     エピローグ

私は祈ります
深い冬の空に向って
どうぞ私から希望をとりあげないで下さい
私の合わせた掌がすこし揺れる
竹藪の竹の梢もすこし揺れる
杉の梢と椎の梢がかすかに揺れる
それがみんな冬の陽に静かに光りつつ
祈っています
合掌して祈りながら
空に向って揺れています
[#ここで字下げ終わり]



底本:「三好十郎の仕事 別巻」學藝書林
   1968(昭和43)年11月28日第1刷発行
初出:「婦人公論」
   1957(昭和32)年4月号
入力:伊藤時也
校正:伊藤時也・及川 雅
2008年12月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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