車な事を言って居れる。しかしイザと言う場合に、ホントに自分を支えてくれるものは、大概、外部から見れば平々凡々たる単純なことだ。現に女房が死んだ時に俺を支えてくれたものは「神」の観念だった。……兵隊が死にぎわに、「天皇陛下万才!」と叫ぶそうだ。中には「お母さん!」と言って死ぬのも居ると言う。……俺にゃ近頃、そいつが身にしみる程よくわかる。そいつが嘘もかくしも無い自分だよ。ホントの自我だよ。……俺達は、その他の物からは逃げようと思えば逃げ出すことが出来る。しかし自分、自我からだけは逃げられん。これが、俺達に与えられた全部だ。そして、こいつは、ただの一|刹那《せつな》だ。良くも悪くも、その時その時にすっぱだかになって、アッと思って、やって行くきりだ。ベストを尽せば、人間の事は終る。裏切られたって、うっちゃられたって、醜い事を見せつけられたって、いいじゃ無いか。それも亦、めでたき人生の一部だ。元気を出せ。
登美 三好さんこそ、元気を出しなさい。なんなの、その恰好。今にもぶっ倒れそうよ。
三好 フフ、倒れるかな? しかたが無いじゃないか。(二人は互いに憐れむような顔をして微笑し合う)
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