な……。でも、持って行かないんなら、僕に貸しといて下さい。
堀井 いいさ。他にあげる物と言っても、なんにも無い。その煙草入れは気に入ったらしいけど、駄目だしなあ。これでも親父があちらから持って帰った時は、関税だけでも百円近く取られたらしいけど、こうして封印を附けて書き出して見ると、たしか七十円たらずだよ。なさけ無いや。まあ、そのお不動さんでも持っていたまえ。もしかすると、そいつが僕の形身になるかも知れん。
お袖 先生、そんな――。
堀井 いいよ、わかってるよ。大袈裟な事あ、俺あ、きらいだ。だけどね、……たかが軍医で行くのに、死ぬの生きるのと言うのも変な話だけど、実あ正直の事言やあ、……今迄みたいにしてフラフラやっているなあ、いやんなっちゃった。死んだっていいから、もっとハッキリした事をやらないじゃ、もう、俺あ、たまらん。
三好 ……(急になぐりつけられでもしたように、首をうなだれて聞いている)
堀井 人間、四十になって、こうして、先祖以来の家にも住めん。診療所も院長と言うなあ名ばかり、月給九十円の雇人だ。キョトキョトしながら、人にかくれて、親子三人アパート住いだからな。アッハハ。いくら
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