ハ、君じゃあるまいし。
登美 いえさ、それだけで無くさ、なにか……。
三好 そんなに気になるんだったら、電話で何かそう言って……。
登美 電話は、とうに、切られているじゃ[#「いるじゃ」は底本では「いるじや」]ありませんか。
三好 そうだった。じゃ、やめるさ。
登美 いいわ、私、ちょうど手紙を出すのが有るから、ついでに言って来てやろう。いくらなんでも、かわいそうだわ。(立って奥へ)
三好 ついでに煙草買って来てくれないかな。
登美の声 はーい。
三好 金は、チョット角の店で借りて――。
登美の声 私、有るの。……(ドカドカ上手奥へ去って行く足音)
轟 ……全体、どうした人ですかね。
三好 だから、借金取りさ。韮山|正直《まさなお》か。音で読めば正直《しょうじき》だから笑わしやがらあ。
轟 いや、あの登美子さんですよ。
三好 登美? どうとは?
轟 どうして内を飛び出して、此処へ来てるんです?
三好 さあ。僕も詳しい事は知らんがね、家の相続問題でゴタゴタしているとか言ってた。あの人の上に兄さんが一人居てね、二人兄妹だが、その兄きと言うのが、なんでも妾腹の子だ。そいで、家の後しき〔跡式〕を
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