方の御相談も――。
轟 どうか、よろしくお願いします。そんな事になれば、僕も実にありがたいし、どうか一つ――。
浦上 あなた、小田切さんに一度会ったらどうです?
轟 小田切喬さん?
浦上 やっぱし、そんな事になればデビュは、大きい所からした方が将来のために良いし、小田切さんの口添えと言う事になれば、文壇方面で、その先刻言った先入観と言ったような事も、結局うまく行くと思うんですよ。なんなら、私の方から紹介してあげてもよござんす。
轟 そうですか、では、どうか一つ御紹介を願います。実はそれは以前から考えていたんですけど、そんな事を言い出すと、いやな顔をされるもんですから――。
浦上 いやな顔を? 三好さんがですか? そいつは、しかし、よく無いと思うなあ。後輩の進んで行く路を、そんな事でふさぐと言う手は無いですよ。
轟 いえ、そんなわけでも無いんですけど。……僕のために考えてくれているにゃ居るんです。ハハ、先刻も、そ言った事で叱られていたとこでした。あの人の言う事に間違いは無いんだ。でも、なんしろ、善良過ぎる人で……しかもドグマチストと言うんですか、こだわる必要の無い所でも、自分がこう思ったら、むやみと自分を通そうとするんです。
浦上 それなんだ。あの人が、もっと大きな作家になれないのも、その性質のためです。もっと人の言う事を聞いて呉れりゃ、いいんだが。一徹と言うよりも、なんか変質的にイコジだから。
轟 近頃、イライラしてるからですよ。人は無類に善良な人ですよ。ハハハ、あんな、良い人は居ませんよ。良い人です。ハハハ。私の「水の上」が、もし、そんな事になれば、キットよろこんで呉れます。
浦上 そりゃ、よろこんで呉れるのが当然ですからね。先輩として……。
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(言っている[#「言っている」は底本では「言つている」]所へ、奥から足音が此方へやって来る。轟と浦上はポツリと話を止めてしまう。……三好入って来る)
[#ここで字下げ終わり]
三好 ……どうも失敬。
轟 どうしました?
三好 ううん、何でも無いんだ。待っている人が、居眠りをしていて、チョット……。
浦上 そいじゃ、お客さんもお有りのようだし、今日は、これで――。(腰を上げて縁側へ)
三好 そう?……すると、じゃ、まあ僕の物は引込めるとして、拝借してある金は、どうしたもんですかね?……今返すと言っても、僕の手元には、まるで無いし――。
浦上 いいえ、その事は、いずれ又、何か新らしく書いていただく時にでも清算していただきますから、気になさらないで――。
三好 そいつは是非書かせていただきたいけど、でもいつになるか当ての無い事では、御宅の方も整理が附かないでお困りでしょうし[#「しょうし」は底本では「しようし」]――。
浦上 いや、それは……。(かまわず靴を穿きにかかる)いずれにしても、元々私の方でお頼みして書いて貰ったんですから[#「貰ったんですから」は底本では「貰つたんですから」]、仮りに、これきりになりましても、それは私の方の責任で、あなたに御迷惑をかける筋はありませんから――。
三好 え? それ、どう言うんです?
浦上 まあ、まあ良いじゃ[#「良いじゃ」は底本では「良いじや」]ありませんか。あんまり、そんな事気になさらないで、どうか――。
三好 (顔の色を変えている)しかし、そんな、そいつはくない[#「そいつはくない」はママ]。あなたの言う事は――。
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(そこへ、やはり下手庭口から、ワンピースにサンダル下駄を突っかけた登美が妙な表情をして、背後を気にしいしい戻って来る。その後から、ボサボサの頭髪にヨレヨレの袷を素肌に着流し、サナダ紐で帯をして煎餅のようにチビた下駄を引きずった若い男(佐田)が入って来る。消耗性の病気にやられている者特有の身体つきと顔の色で歩く足附きなども少しフラフラしている。入って来て立停り、誰にと言う事も無くヒョコリと頭を下げる。……此方の三人は一斉に二人に目をとられ、三好も言葉をとぎらせてしまう)
[#ここで字下げ終わり]
登美 ただ今あ。直ぐ持って来るんですって。(ドンドン上にあがる)
三好 おそいなあ。
登美 だって[#「だって」は底本では「だつて」]……(佐田を頤で示して)……向うで会っちゃって、いいって言うのに、ついていらっしゃるんですもの。
三好 佐田君、どうしたの?
佐田 はあ。……
三好 まあ、あがったら、いいだろう。(佐田黙って縁側の端の方に腰をかける)
浦上 では、これで失礼します。
轟 僕もその辺まで御一緒に[#「御一緒に」は底本では「御一所に」]――。(庭に降りる)
三好 チョット待って下さい! それじゃ僕が困るんだ。僕に迷惑はかけないと言うのは、どう言う事なんです?
浦上 ですから、既にお払いし
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