知の相談を持ち出して――。
浦上 ですから、一応、これは、あきらめようと――。
三好 ……浦上さん、お願いだから、ホントの事を聞かせてくれませんか。おなじみ甲斐に、歯にきぬを着せない所を。遠慮なく、ひとつ――。どっか、内容的にまずいとか。
浦上 とんでも無い。内容は、うちの皆も全然気に入っているんです。そんなあなた……。
三好 だって初めから、長さはこれ位でよいか、よろしいと言う事でお引受けした物を、今更になってこんな事になれば、そうとしか考えられない。言って下さい。かまわないんです。でないと僕の勉強のためにもならん。第一、のみこめないんだ。
浦上 いえ、ホントに――。ですから、予定がスッカリ変わっちゃって……その点は、私共の不明の致す所で――。
三好 言って下さると、ありがたいんだがなあ。すると、その理由の是非はともかくとして、とにかく納得が行くんだけど。
浦上 ホントに、絶対にホントに、それ以外に理由は無いんですよ。ですから、この際は一応あきらめるとして、その内に又二本立てで公演すると言った折が有れば、その際もう一度改ためて考えて見ようと言っている者も有る位で……。
三好 そうですか。……(青い顔でションボリしている)
浦上 では、一応この原稿はお返しして……(カバンの中から原稿の袋を出して差し出す)どうも――。今日はチョット忙がしいので、いずれ又、近い内に……。
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(言っている所へ、下手奥の方で、板敷の床の上に重い物が倒れたらしいドシーン、ガチャーンという音がする。それが静まり返っている広い屋内にこもって響き渡る。三人、ギョッとして聞き耳を立てる。音はそれきりで、あとは再びシーンとなる)
[#ここで字下げ終わり]
轟 ……なんです?
三好 ……チョット……(浦上に言って、ノッソリ立上り、下手奥の方へ室を出て行く。浦上は帰りもならず、暫くモジモジしていたが、やがて諦らめて腰を落着け、煙草に火をつける――間)
轟 ……三好さんの、その脚本、ホントに長過ぎるだけなんですか?
浦上 え?……ええ……まあ……。
轟 あれは、僕も読まして貰いましたけど、物は立派なものなんだから、惜しいなあ。
浦上 ええ、まあ。……ただ少し暗くてねえ。
轟 ……(相手の表情をさぐるようにしながら)……すると、やっぱり、内容としても、まずいと言った風の――?
浦上 いえ、そうハッキリした事じゃ無いんですけどね、とにかく長過ぎるんですよ。……近頃、三好さんの書く物、益々、なんだか、三好さん自身の人柄が生のままで出て来ちまうんじゃないですかね?
轟 ……でも元来が、人は良い人ですから。偏狭は偏狭ですけど。
浦上 この、ネチネチとからんで来る式の……あれが困るんだなあ。そりゃ、そうだ、人は良い人ですよ。
轟 イデオロギー的にも、少し古いんじゃないですかね?
浦上 さあ。……でも、なんですねえ、時代がこんな風になって来ると、なんかこう飛躍的に明るい力強い物を世間が要求する事は事実ですから。それに、三好さんなど、現在はそうで無くても、昔が昔だから、やっぱり変な目で見る方面もありましてね。外部から一人の人を見るのにも先入観と言ったようなものが有って、そんなもの馬鹿げていると言えば言えるが、やっぱし、世間を相手にして芝居をして行かなきゃならんとなると、そいつを無視するわけにも行きません。あんたなぞも、最初、妙な色眼鏡で見られないように気を附けないと――。
轟 よくわかります。実は僕もそれには気が附いているんで、なんとかしたいとは思っていますけど、別にツテも無いし、何とか、しようにも未だロクな物は書けんし。
浦上 でも「水の上」など、面白いと言うじゃありませんか。あれは何枚でしたっけ?
轟 四十七八枚です。いや、まだ駄目ですよ。
浦上 たしか、大陸物だったですね?
轟 大陸物と言うわけでも無いですが、多少そっちの方にも引っかけてあります。素材だけは新らしいつもりですけど、まだまだ、仕事が青くって……。
浦上 そうだなあ……四十七枚と。……道具は――装置ですよ――何杯でしたっけ?
轟 一場面きりです。夜の河岸ですから、簡単なもんです。
浦上 そうか。すると……そうだなあ……そいつは良いかも知れんなあ。ええと、その雑誌、今、あなた持っていませんか?
轟 今は持っていませんが、なんなら、明日にでもお届けしましょうか? 読んで下さいますか?
浦上 三好さんのと突き代える物が、二三有るにゃ有りますけど、とにかく、今大至急に捜しているんですよ。そうだなあ。明日にでも、もし出来たら、その雑誌を持って一度僕んとこにやって来て呉れませんか?
轟 あがりましょう。事務所ですね?
浦上 御存じでしたね? とにかく、その上で、拝見もするし、もしそれで行けるようなら、その
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