上さん、これは、やっぱし芝居を書いている友人で轟一夫君。一所懸命にやっている人だからどうか今後よろしくひとつ。……(轟に)浦上豪三さん。
轟 どうかよろしく。
浦上 こちらこそ。たしか、この間、「水の上」と言うのをお書きんなった?
三好 ああ読んでくれた?
浦上 私は忙しくて、途中までなんですが、ほかの者が読んで感心していました。
轟 ありがとうございます。こちらでズーッと見て貰ってるんですが、まだ、ロクな物は書けません。
浦上 いやあ、うち[#「うち」に傍点]あたりでも、いつも本が無くって弱っているんですから、どうか、よろしく。なんかお書けになりましたら、是非お見せ下さるように。
轟 よろしくお願いします。
三好 どうも、お茶も無くて弱った。登美の奴、どこをウロウロしている……。
轟 僕が入れましょう。(気軽に立って、奥へ)
浦上 いえ、どうぞおかまい無く。……(何か言い出しかねてモジモジしている)
三好 僕が言うと何だけど、今の轟、僕の知っている新進の中では今後一番書けそうな男ですよ。少し気永に見ていてやって下さい。
浦上 そりゃ、もう……。(煙草に火をつける)
三好 ところで、僕のやつ、演出は誰にきまりました?
浦上 ……実はそれなんですが。……もっと早く来なくちゃいけなかったわけですけど……なんしろ、まだほかの脚本が全部出そろって無いと言った有様なんで……実にどうも失敬しちゃって――。
三好 いやあ、そいつはお互いだ。やっぱり伊坂君と言う事になりますか? 山口さんと言う手も有るだろうけど、山口さんじゃ、少し小取りまわしが利かんで、力仕事になり過ぎるかな。伊坂君じゃ、小味に過ぎて大劇場には向かんと言う難も有るが、でも結局、トータルから押せば、こいつ、伊坂君のもんでしょうね。
浦上 ええ、うちでも、その点は大体まあ、そんな事を考えていますが……実は、こんな事を今更になって言うと、怒られては困りますが……実は、なにしろ、初め二本立ての予定が三本立てになったもんですから、中幕の時間としては、どうしても一時間しか取れませんので、……いかんせん、あなたの物は少し長過ぎまして――。
三好 へえ? ……でも、それは、そちらでも初めから承知の上で――?
浦上 ですから、大変申しわけの無い次第ですけど……今言った通り、二本立てが三本立てになっちゃったもんで……経営的にやむを得ない理由が有りましてね、どうも、二本立てが否決されちまったんです。……そんなわけで、今更になって甚だ申しわけがありませんが――。
三好 ……刈込むんですか?
浦上 ええ……実はそうも考えて見たんですけど、あなたの前で言っちゃ、なんですけど、さすがにピシッと出来ていて、これ刈込むと言っても、そんな余地は無い。下手をすると、せっかくの良い脚本をぶちこわしてしまう。それでは、うちの芝居の建てまえにも反するし、第一、あんたに対して失礼過ぎる。で、此の際、残念ながら、これは一応保留と言う事にして、なんとか、他に応急策を考えようと皆の意見が――。
[#ここから2字下げ]
(その話の内に轟が茶を入れて出て来て、二人の前に茶を出し、自分も坐って飲む)
[#ここで字下げ終わり]
三好 …………そうですか。……そいでほかに適当な本が――?
浦上 無いんで、困っているんですよ。こう日が迫って来ちゃって、改ためて誰かに頼むと言うわけにも行かず……出来る事なら、多少の無理をしても、あなたの物を予定通りやりたいのは山々ですけど。
三好 ……仮りに刈込むとすれば、どれ位ちぢめれば、やれます?
浦上 それがねえ、あまりひどいんで言いにくいんです……。
三好 言って見て下さい。僕も、あれで以てお宅から金を前借りしているんだし、それが駄目だで、すましては居れんので、出来る事なら、なんとかして上演して貰わんと気が済まない。あれは百五十枚チョットとですが、二十枚位なら刈込めるかも知れませんよ。
浦上 それがねえ、とても、それ位では――。なんしろ、取れる時間が、精一杯で一時間足らずなんで――。
三好 すると、百枚にちぢめても駄目ですね?
浦上 ええ、まあ……。
三好 じゃ八十杖なら、出来ますか?
浦上 それでも少し長過ぎますけど――。
三好 じゃ五十枚なら?
浦上 そうしていただければ、時間の点はいいんですが、そんなに刈込めますかしらん?
三好 ハハ、刈込めませんねえ。いくらなんでも三分の一には出来ないでしょう。そんな脚本は、初めから僕は書いていないつもりですがねえ。
浦上 ですから、ですから、初めにも申した通り、あんまり失礼だからって――。
三好 そいつは、しかし、少し無理と言うもんじゃないかなあ。……戯曲は生き物ですよ。そいつを三分の二だけ、ぶった切って、恰好つけろ。……こいつは、初めっから、出来ないを承
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