積んで来ているんでしょうからね。でも、とにかく、五年前に先生のお借りになった金は千円とチョットですよ。忘れもしません。病院の方の、僅かばかりの建て増しの金なんですから、なんしろ、高利の金と言うのは怖いもんですよ。三好さんなども、お気を附けなさいましよ。
三好 ハハ、なに、貸して呉れる先さえあれば、高利もヘッタクレも[#「ヘッタクレも」は底本では「ヘツタクレも」]構やあしない、のどから手が出る位に欲しいけど、先様で相手にしません。でも、物は試しだ、韮山に申し込んで見るかな。
お袖 とんだ事をおっしゃる。淀橋の韮山正直と言やあ、あの島では名代《なだい》だそうですからねえ。彼奴にかかられて生血をしゃぶり[#「しゃぶり」は底本では「しやぶり」]尽された者が、どれ程居るか知れないんですよ。
三好 生血か。……血ぐらいなら、僕にもまだ、いくらか有る。
お袖 それに、憎らしいじゃ[#「憎らしいじゃ」は底本では「憎らしいぢゃ」]ありませんか。あれで、色気だけは隅に置けないんですよ。みずてん芸者の若いのを二人も三人も妾にして、待合いなんぞ出させているそうですよ。それでいて、女と見りゃ、誰彼なしに、直ぐにいやらしい真似をする。
三好 お袖さんなども、一票を投じられた口じゃないかな。どうです。チット色を持たせて、あべこべに大将の生き血をすする?
お袖 おお、いやだ! 男ひでりが、しやしまいし!
登美 ようよう!
お袖 こら馬鹿! お登美!(三好、登美、お袖笑い出す。佐田だけが、自分の傍で喋られている事にまるで無関心に、死灰の様に坐っている)……さてと、じゃ、私、離れの方に行きますから、彼奴には黙っていて下さいよ。先生の事を聞いて、又うるさいから。クサクサして仕方が無いから、おさらいでもするんだ。
登美[#「登美」は底本では「三好」] あとで、私にも又教えてね。
お袖 モダンガールに弾かれちゃ[#「弾かれちゃ」は底本では「弾かれちや」]三味線が泣く。
三好 鞍馬山だけは、かんべんしてくれないかな。あいつをやられると、脳味噌を引っ掻きまわされるようだ。
お袖 おっしゃいます! こうなったらなんでも引っ掻いてやる。(立ちながら)だけど、どうかなすったの? お顔が真青ですよ。
三好 ヘッヘ、若葉の照り返しだ。
登美 ふんだ! さっきの、ザマ!
お袖 なんですの? ……(それよりも自分の言った真青
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