上 ……じゃ失敬。いずれ又――。(庭口から歩み去る。轟はチョットマゴマゴしていたが、やがてコソコソと立ち去る)
三好 待て! それで行ってしまわれては、俺あ――。(ヨタヨタと庭口の方へ追う)おい、浦上君! 轟! 君もチョッと待ってくれ! おい轟! 君まで行ってしまうのか! 浦上君! 浦上! (あまり昂奮しているので走って行けず、ハアハア喘ぎながら庭木戸の傍の木につかまってしまう)
登美 三好さん――(立って来る)もう、いいわ。
三好 …………(なさけ無い姿で木につかまって、ハアハア喘いでいたが、やがて、しゃがんでしまう)
登美 どうなすったの? 三好さん?
三好 うん。…………(昂奮のあまり、やがて、ゲーゲーと嘔吐する)
登美 あら! (びっくりして、下駄を突っかけて走り寄って来て、三好の背に手をかける)どうしたの? いいじゃありませんか、あんな人達の言う事なんか! そんなムキにならないで! チェッ! 醜態だわ!
三好 ……(よごれた口のはたを横なぐりに拭きながら)うん。……うん。……やられた!……俺にゃ一言も無い。それを言われちゃ、一言もない。いたちっ屁を、ひっかけたきりで行ってしまやがった! いたちっ屁だ。参った。……彼奴の言う通りかも知れんのだ。畜生! (フラフラしてまだ歩けない)
登美 (ハンカチを出して)はい、これで拭いて! いいわよ、もう! 何てえザマなの?
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(佐田がボンヤリ二人を見ている)
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3 夕
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梅雨晴れの午後の陽がカッと照りつけ、底一面、燃えるような緑の輝き。半透明の鮮紅の実をこぼれる様に附けたユスラ梅。縁側に座布団を持ち出して坐った[#「坐った」は底本では「坐つた」]三好と、少し離れて、これもモッソリと坐った佐田。登美は机の向うに坐ってレースを編んでいる。三好と佐田とは、ズッと前から、ボツリボツリと、とぎれ勝に話していたらしい様子。間。静かである。
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佐田 ……読んで下さったでしょうか、僕の戯曲?
三好 ああ読んだ。
佐田 どうでしょう?
三好 うむ。……
佐田 言って下さい。……かまいませんから。
三好 うん。……君の名前は伝次郎と言うのか?
佐田 ええ。
三好 原稿に書いてあったので、はじめて知ったよ。本名なの?
佐田 本名です
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