だて云ふ噂だぞ。製材の朝鮮人の阿呆だと云ふ噂も有らあ。なぜ言へんの? ふーん、なぜ言へんのか、トヨさ? なぜさ?
トヨ ……(顔を上げてクミを見詰める。唇をかんでゐる顔が泣きさうになつてゐる。しかし言葉は無表情に)……言へん。
クミ フーン。さう、フーン。……さうさう、もう私に声は掛けて呉れんな、トヨさ。お前と口利いてゐるの処女会に見られると、仲間はづれにされつからな。
トヨ ……私から声をかけられる心配なぞ、これから、せずともよくならあ。……(ヂツと前を向いたままの両眼から涙がタラタラ流れてゐる)
(間)
(六平太と笠太郎が、ガツカリして無言で戻つて来る。待ち人が来てゐなかつた事が一見して解るのである)
笠太 ……(石に蹴つまづき、口の中で)……チキシヨウ!
六平 ……(無意識に歩いて待合の方へ行き以前に掛けてゐた席に掛けようとして、そこにトヨが居るのを認めてギヨツとして)はあ、斎藤トヨで無やあか。(トヨ返事をせぬ)……トヨどうして此処さ来た?(言はれてもトヨは返辞をするのも忘れてヂツと相手を見詰めてゐる)
笠太 あに? トヨだと? はれまあ、トヨだ。いかん、いかんぞ、こらトヨ! お
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