リポリ掻き、眼を醒す)まだかえ、父う? あれ! まあ、トヨさ……。どうしたん? いつ来たん?
トヨ たつた今ぢや。……まだ身体が本調子でねえけれ、くたびれてねえ。
クミ 歩いてかい?
トヨ うん。コンデンメルクば二つ買うたら車賃なぐなつてしまうて。
クミ 赤は、んぢや置いて来たん?
トヨ 新家の婆ん所、あづけて来たわね。……甚次さん、まだ着かねえの?
クミ んぢや、んぢや、お前も迎へに出て来たんか。いらん世話ぢやがねえ。
トヨ 違ふ。私あ少し遠方へ出かける。
クミ んなら、どうして知つてゐるの、甚次さんの帰つて来るのば?
トヨ そいでも村中で偉い評判ぢやが、黙つてゐても耳にはいるもの。あんでも、えらく出世して金持ちになつて帰つておいでるそうな、ね? ……私、甚次さんとは仲好くして貰うて居た。小せえ時、甚次さんにも二親がなかつたし、私にも、おつ母だけしかなかつた。
クミ フーン。……(急に意地悪くニヤニヤ笑つて)トヨさよ、お前ん産んだ赤のお父うは誰だえ?
トヨ ……(返事をせずに、クミの顔をジツと見てゐてから下を向いてしまふ)
クミ 誰だえと云うたら誰だえ? 高井村の染谷の二番目の若旦那
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