か餓鬼とは! そりや、そりや、あんたに借りが有る者は実正でがす。そりや、返せばようがせう? へん、返し申す、しかし、それとこれとは話が別ぢや。そもそも私等が食ふ物も食はんで、高山の方へ二段田の手附けを打つたといふものが、血の出るやうな――(皆まで言はせず、六平太いきなり立ちかける。丁度そこへ奥で自動車のラツパが鳴つて近づく)
六平 あにが、血の――(そつちを見て)お、来た! こんだ篠町からぢや!(と、口論の方は始つた時と同じく突然に打切つて左手へ走り出す。笠太郎も、これに続いて走つて消える。ラツパの音)(あとには舟をこいでゐるクミと、眠つてゐる六郎)(右手から包みを持つたトヨが出て来る。スタスタ歩いて左寄りの橋の上まで来て立停り、今自分の歩いて来た山の方をヂツと見てゐる。ヒヨイと振返つて待合小屋を認め、急にくたびれが出たらしく休んで行く気になり、その方へ歩み戻る)
トヨ はれまあ、クミちやん? 六郎さんだ。(と声を掛けようとするが、思い返してよして、黙つて、先刻六平太の掛けてゐた場所に掛ける。美しい顔だが、何分にも産後でやつれてゐる。間)
クミ あーあ。あーあ(欠伸。右手を伸して肱をポ
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