ります。伯父として――。(二人それつきりフツツリと黙る。今迄互ひに睨み合つてゐた眼を双方そらして傍を向いてしまふ――間)
六平 ……(せき払ひをして、今迄とはまるで違つた調子で)高山の林ん下の二段田は妻恋一の上田ちう事は皆が知つとる。(とまるきり出し抜けな事を言ひ出すのである)ところが、登記をすんのに三百両ぢやからな、ま、そこで高井の染谷君も二の足をふむ道理か。ハハ。
笠太 (これも別の事を言ふのである)染谷々々と言ふけれどもが、家屋敷から田地|悉皆《しつきやあ》、農工銀行に抵当に入つてゐる上に、篠町の月田の穀問屋へ二重に入つとるげな。内輪を見れば似たり寄つたりだ。他人の世話あ焼かんものよ。のう。ハハハハ。
六平 (カツとして向き直つて)お前、皮肉ば申さるるかつ! 染谷に私が借金しとるのは、嘘でないとも! しかしぢや、私の手元が都合つかんで染谷の方で裁判沙汰にしようとまでなつたと言ふは、肥料代三月も溜めて居る上に耕地整理の際のカカリまで未だに払へもせぬ癖に、たゞもう餓鬼の様に、よい田地とさえあれば物にしようとかかつて居る高山やお前みてえな暴の者が有るからぢや!
笠太 餓鬼とはあんでがす
前へ 次へ
全37ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング