九月の二十八日とは昨日ぢやが。
笠太 そこが二十四や五の女子にや解らんとこよ。積つて見ろえ、先は安多銀行てえ、あんでも東京でも一二の所に務めてゐる身体だ、都合で一日伸びと云ふ事有ら。うん。
クミ そりや、さきおととし来た手紙に書あて有つた事ぢやろが。……あああ。私、もう帰るから、自動車賃くれろ。
笠太 帰んなら帰れ。金は無え。足が有ら、けつ。三十銭なんて払へつか!
クミ 昨日から三度行つたり来たり、四里ぢやから三四十二里、私あ太腿さシンが入つたわ。乗合が有んのに乗らねえんだもん。乗合通はすの、んなら、村でことわればええに。
笠太 此の女郎! オタンコナスめ、あんにでもケチを附けるたあ、貴様あ、六平太の小父きにソツクリぢや。帰れ、クソ!
声 あにが私にソツクリぢやね?(言ひながら、当の妻恋六平太が、酔つた顔をして右手から現はれる。山高帽をかむり、袴を着けてゐるが、どう云ふつもりか、袴の両モモダチを上げてゐる。待ちあぐねて、直ぐ近くの茶店に行つて一杯ひつかけて居たのらしい)ああん、帰れとは?
笠太 ははん? ……あんたも、もう帰つてくれろ。
六平 帰つてくれろ?
笠太 ははい。もう、こんだ
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