あにが、此のオタンコナスめ、貴様の亭主にならうと云ふ男ば迎へに出るが、あにが慾だ! 親の慈悲ば、ありがたいと思へ。
クミ ……(欠伸をして)くふん。甚次さんのお嫁さん、甚次さんのお嫁さんと云ふちや、処女会の人が私の事を、ひやかす。私あ、なんぼう、てれ臭いわ。
笠太 あにを! ぢや手前、甚次、嫌えか?
クミ 嫌えにも好きにも、顔も憶えちよらんに。
笠太 今に見ろ、今に見ろ。永年東京で磨き上げた男ぢやぞ、こねえな山ん中で山猿共の面ばつかり見てゐた手前の眼がでんぐり返らよ。ポーツと来ねえように気をたしかに持つちよれてば。アツハツハツハ。アハハハハ。(一人むやみと上機嫌に哄笑するのである)アハハハ。辺見笠太郎の体面に関すらよ。あんまりだらし無くおつ惚れんな。ハハハ。
クミ んでも、来なきや仕様あんめ。今日も、はあ、もうお日さんが一本松の股んとこまで落ちたで、日が暮れらね。(笠太郎ケロリと笑ひ止む)
笠太 読んで見ろ。これ読んで見ろえ。
クミ 何度読んだとて同じぢや。小生一生の事に就き伯父上に御相談致したく、だ。来月二十八日篠町着にて御伺ひいたす……あんまり何度も読まされたで暗誦してしまうた。
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