は後に出て来る区長の六平太の末の子である。右手に紙製の小さな聯隊旗を握つたままである。――間。
[#ここで字下げ終わり]

笠太 そんな筈、にやあて! 来にやあ筈、無あ。来にや……(しきりと延び上つて見る。――間。遠くに自動車のラツパの響)おい、あれだわい! あれだわい! (言ひながら橋の方へ走り出して行く。ラツパの響遠くなり消える。)あんだあ畜生、高井行きだあ。(戻つて来る。疲れてゐるので石につまづいてヒヨタヒヨタ倒れさうになるのをやつとこらえて)くそつたれ!
クミ ……もう帰ろよう、父う!
笠太 甚次といふもんは、チヤツケエ時分から口の堅い奴ぢやつた。まあ待て、来にや筈無え。
クミ そいでも昨日も朝から待つてゐて、おいでんならんに。処女会や青年団からまでああして出迎へん来て貰ふてさ、そいで、おいでんならんもの。私あ面から火が出よつた。
笠太 あやつ等は、甚次が来たら寄附ばして貰はうといふ下心で出迎へなんぞに来よつたんぢや。慾にからんでさらすで、油断ならんわ。甚次が昨日着かなくて却つて都合よかつたのだ。
クミ 父うぢやとて、慾ぢやが。
笠太 あにをつ※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
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