妻恋行
三好十郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)さえ切《ぎ》つて

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)田地|悉皆《しつきやあ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
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 さびれ切つた山がかりの宿のはづれ、乗合自動車発着所附近。上手に待合小屋、下手に橋。奥は崖、青空遠く開け、山並が望まれる。
 夏の終りの、もう夕方に近い陽が、明る過ぎる。よそ行きの装をした百姓爺の笠太郎が、手紙らしいものを右手に掴んで、待合の前に立ち、疲れ切つた金壺まなこを落込ませ、ヤキモキしながら延び上つては橋の向ふを注視してゐる。待合の板椅子の上には下駄を脱いであがり込んでペタンと坐つてゐる娘クミ。よそ行きの装に、見たところ少し唐突に思へる蝶々に結つた髪はよいが、ボンヤリして口を少し開いてゐるのは疲れ過ぎてゐるのだ。クミの膝を枕にしてクークー小さな寝息で眠つてしまつてゐるのは、十歳になる六郎少年で、これ
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