人が欲しかつたんぢや。寂しかつたんぢや。そこへやさしい事言はれて、ツイほだされてしまうた。私と云ふ者は小さい時から、人に可愛がつて貰うた事がなかつたのぢや。寂しかつた。ああ。……ズツと前可愛がつてくれた人が一人だけは有つた。学校帰りにはアケビば取つてくれては、私の口に入れてくれた。その人はどんな気でゐたか知らぬ、私はその人のお嫁になる積りで居た。その人は東京で偉い出世ばしてゐるげな。……さうでなくても、かうなれば、もう駄目ぢや。もう駄目ぢや。はあ、もう駄目ぢや。……(フツツリ黙る。紙芝居何か言はうとするが言へず、これも黙つてゐる)
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(余り離れてゐない太田屋で、酒を喰ひ酔つて喚いたり唄つたりしてゐる高井村のオヤヂの声が聞えて来る)
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トヨ ……(又我れに返つて、フト気を変へる。少しきまりも悪いのである)ああ、私ああにをベラベラ喋くつたかいね? ハハハ、初めて会うた、あんた様つかまえて。ハハ。んだが、あんたさんであればこそ聞いて下さる。村の人あ皆私とは口も利いてくれんもんね。ヤツト、ヤツトの事で胸ん中の事スツカリ人に話して、セイセイして元気が
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