幼児を負うて、仇六について出て来る。仇六から、おい君吹かんかよと言はれて、困つて笑つてゐるのである)吹けえオイツ! 吹かにやかつ!(男、仕方なく持つてゐるハーモニカを二声三声吹く。仇六は踊る)ハ、ドツコイドツコイ、ドツコイサ、音頭とる子が橋から落ちたあ、流れながらも、音頭とる、ハ、ドツコイ……。あれえ、なぜ吹くば止すのだつ?
紙芝 (弱つて)此の子が目を醒して泣きますから。
仇六 かまん、かまん! ハ、ドツコイ……。
六平 仇六、今帰るか? えらい景気だの!
仇六 はあ、区長さんかね? 景気も景気、大景気さ。家中の者、夜も日も寝ねえで夏中かかつて出来したおカイコが、いぐらだと思ふ? へん、いぐらだと思ふ? へん、大枚十四両と二分だあ。問屋場ぢや一円七十銭の値が崩れようとしてけつからあね。大枚十四両と二分だあ! どうでい、大分限者だぞつ!
笠太 ヘーイ、さう言ふ事になつて来たんかのう!
仇六 桑の代だけも十両ばかかつてゐるんだぞ。へん、俺あ泣けて来たで、泣く代りにドブロクひつかけて来たんぢや。景気が好いのがあにが悪いかつ! 俺あ十四両の大分限者でい!
笠太 私んとこも、そいでは、早く秋蚕
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