そもそもあの二段田の落着き先と云ふもんは――。
笠太 お言葉中でがすが、お言葉中ぢやが――。(その時右手から野良着のままのオヤヂが酔つてユデダコの様に赤い顔に手拭ひ頬被り、右手に大型の稲刈鎌の光つた奴を握つて、気が立つてゐる様子で小走りに出て来る)
オヤヂ 逃がしはしねえぞつ! 畜生! 待ちやがれ! (言ひながら、待合に飛込む。アレと叫ぶクミ)やいやい! (自分の顔を相手の鼻先に突き付ける様にして、五人の顔を順々に覗き込む。しまいに寝てゐる六郎の顔まで覗き込むが、目的の顔にはぶつつからぬと見えて)畜生、どこい行きあがつたのだ! 出ろ、出て来い! (外へ飛び出る)他人からクスネたこうじ[#「こうじ」に傍点]で拵えた酒ぢや無えのだつ! よけいな世話あ焼きあがつて! 告発するが聞いて呆れらあ! へん、おカミがあんでえつ、私等のたつた一つの楽しみば、告発だとつ! クソツ、見付けたら最後、うぬの首あ、かつさばいてやつから見てやがれつ! 人の怨みが有るものか無いものか!(キヨロキヨロ左右を見た末、持つた鎌で何かを散々に斬る真似をしてから再び右手へ走つて行つてしまふ)
クミ あんだえ、あの人※[#
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