話しとかあ。よし、ぢや、とんかく産後ではキツからうで、篠までは乗合に乗つて行きな。さ、私が、賃金は出してやつから。さ、遠慮いらね、取つときな。
トヨ ……へい。いりません。
クミ いただいといたら、えゝに、折角人が――。
トヨ いらねえ。
笠太 ……いけ、剛情な――。
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(間)
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クミ はあ、もう、おつつけ日が暮れら。
笠太 (又出しぬけに、六平太に向つて)区長さん、あんたもう帰つてくだせ、よ。
六平 (これも亦、火が付いた様になつて)そもそも高山の二段田と云ふは、本村では、三石が少し切れると申す取れ高一番の上田であつて見れば、ねらつてゐるのは、尊公一人と思ふと当がはづれるぞ。娘一人に婿八人、えゝと、婿は七人だつたかいな……(クミがクスクス笑ふ。六平太は自分で自分の話の脈絡を失つて、尚一層の馬力で喚く)そ言つた訳! 尊公が高山に対して手附の上にいくら貸金が有るか知らんが、その尊公にあいだけの貸しが有るのは私だ。その私が又、どうにもかうにも染谷への払ひが出来ず染谷は染谷で分散しかけてゐるとあつて見れば、これは全体どう云ふ理窟になるか! うん?
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