て、クミを思ひ出して走つて引返し、クミの手を取つて引立てる)さ、来う! さ!
六平 (同様に寝こけてゐる六郎を引ずり起して)さ、こら、六! シヤンとせえ!(手を取つて走り出す。既にその時には笠太郎はクミの手を引いて左手の橋を渡りかけてゐる)
女車掌 松島屋へ行くんだら、通りを行くより、直ぐそこんキビ畑左い折れるが近道だよう。
六平 さ、こら!(と負けじと走りかけるが、寝呆けてゐる六郎の身体が足もつれになつて前へ行けず、ドツと転ぶ。その間に六郎が小旗を振り振り夢中で左手の方へ走り出す「はあ、万才! 万才!」と叫びながら。それを追掛けて腕を掴んで引戻して)こん野郎、そつちで無えわい!(六郎を殆んど引ずる様にして左手へ橋を渡つて走り去る)
女車掌 あーんだえ、ありや! 豚の尻つぽさ、火が付きあしめえし!
仇六 豚だか馬だか知んねえが、尻つぽさ火が付いたは、ホンマらしいて。アハハハハ! どりや、帰るべいや。ドツコイシヨ。
女車掌 乗らんかね、あんたあ?(男に)
紙芝 乗らん。私あ此処で――。
仇六 乗せてくれるんか? ホンマか、べつぴん?
女車掌 あれま、あんたユンベ篠の祭に出てゐた紙芝居の人でにやあかね?
紙芝 ……見たんですかい? ハハ、きまり悪いなあ。
女車掌 面白かつたで、おしまひまで見てしまうたよう。沓掛時次郎つうの好いわえ。(声色)太郎吉よ、もつともだ、俺も逢ひてえ、逢つて一言……あの辺好いわえなあ。
紙芝 ありがとうさん。まだ下手だ、私あ。
女車掌 これから又商売行くの?
紙芝 へえ、まあ……。
仇六 おい、乗せてくれるんかい? べつぴん、ホンマに乗せるか?
女車掌 あんだい、いやらしい、こん助平!(仇六の頬を平手で一つ喰はして、ドンドン左手へ行つてしまふ)
仇六[#「仇六」は底本では「仇七」] タツ! アハハハ。ワーンワーンワーン!(泣き真似。しかし涙を流してゐる)ワーン! 待て、この女郎め! 帰るから待ちなつ! ワーン(手を振り振り、左手へヨロヨロ小走りに、踊りの手附きで、唄ひつつ去る)マユ売る阿呆に、マユ売らん阿呆、同じ阿呆なら、飲まねや損ぢやい……。
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(後に残されたトヨに、紙芝居。暫く二人ともヂツとして身動きもしない。……やがて紙芝居ノツソリ立上つて振返つて見てから待合の中へ入つて行く)
[#ここで字下げ終わり]
紙芝 やあ、御
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